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竜胆が知るのは知るのは新聞の切り抜きを使った脅迫文だけ。白紙の手紙を手にとって気付くのは紙の折り方の違いに封筒の違い。そしてオレンジの香り。その匂いを嗅いで竜胆は首を傾げた。アロマオイルの香りではないからだ。急遽取り寄せた犯人と同じものと思われるオレンジのアロマオイルと比べてみるとやはり匂いが違う。こちらはどちらかと言うと本物に近い。脅迫文と白紙を送ってきた人間は別だと考えるのが普通だろう。竜胆は白紙の紙を置いて歩き出した。
「あれ?どこに行かれるんですか?」
「ちょっと大富豪と相談」
竜胆は第三音楽室を出て少し歩いた所で鏡夜を見つけた。
「ちょうど良かった。鏡夜を探してたの」
竜胆は身を翻し再び鏡夜と並んで第三音楽室へ戻る。
「鏡夜。答え合わせといきましょうか」
「もう犯人を特定したのか?」
「一人だけね。でも、動機が分からないの」
脅迫文の犯人は満山香南で間違いないだろう。そして香南は何故かオレンジ=九瀬に罪を着せようとした…とは考えられない。二人の関係はどう考えても悪いものだとは思えないのだ。色んな所から情報を集めたが九瀬の家に買収される、という話は持ち上がっていても二人は不仲ではないのだ。
「それで聞きたいんだよね。九瀬先輩と満山先輩の幼馴染である鳳君。あなたなら満山先輩の動機も分かるんじゃない?」
「…俺も動機までは分からないが、とても優秀な助手を持って俺は嬉しいよ」
犯人を知っていた鏡夜。それはきっと白紙の方の犯人も鏡夜は知っている。だが、それをあえて言わないのは何か策があっての事。鏡夜の性格は分かっているつもりだ。
「いつから助手になったわけ。言っておくけれど自分と鏡夜は親友。――…今までもこれからも。勝手に地位を変えないで」
「そうか」
「そして親友の自分から言わせてもらうと、今の鏡夜は無理してるように見えるけど?」
「気のせいだろ」
「後ね、最後に一つ。鏡夜。あなた役者には向かないね。下手すぎるよ」
皆を煽るような言葉はあからさま過ぎて逆に面白い。ねぇ、鏡夜。貴方演技が下手過ぎるのに。どうしてあの時のキスは上手だったのかしら、なんてね。
終
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