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「…鏡夜、助けて」

「はいはい」

竜胆は鏡夜に手を伸ばして鏡夜はそれを力強く引き寄せた。竜胆は立ち上がるとすぐにチェアに座りアイスティーを一口飲んだ。

「もう、アントワネットを呼ぶなら先に言って欲しかったわ」

「オプションとして呼んだが、マイナス効果だったな」

「私にしてもね」

竜胆は溜め息を吐きながら外にある水道で手をしっかり洗った後に美鈴から貰ったクッキーに手を伸ばした。チェリージャムを使ったクッキーは本当に絶品で竜胆は目を輝かせた。

「鏡夜!これすっごい美味しい!食べてみて!はい、あーん」

竜胆はクッキーを一つとって鏡夜に向けるのも鏡夜はそれを見たまま動かない。口を開けようとしないのだ。

「……犬を触った後洗剤もつけずに洗った手で人に食べさせるのか、お前は」

「………いいよ、中で洗ってくるし……鏡夜のバーカ!」

「はぁ?」

近くに水場があるが、生憎そこに洗剤はない。竜胆はペンションの中で手を洗ってぼんやりと考える。今のあーんはどう考えても自然だった。隣に座ったのも自然だった。自分では意識し過ぎずにちょっと近付けたかな、なんて少し嬉しく思っていたのに。気付いたのはあーんとしてから食べない鏡夜を見てからだけど。いや、そもそも期待とかしちゃいけないんだよね。だめ、もうやってあげないし。竜胆は勢いよく泡を洗い落とした。

「お帰り」

「ただいまバカ鏡夜」

そう言いながら竜胆は再びチェアに座り、クッキーに手を伸ばした。そして気になるのは鏡夜の視線。

「何よ、もうあげないんだから」

「なら勝手にもらうまでだな」

鏡夜は竜胆の腕を掴み動かないように固定した後指先のクッキーを攫って行った。

「ん、意外に悪くないな」

そんな事しなくても自分で取ればいいじゃない。わざわざ私が掴んでいた物を取る理由なんてないというのに。竜胆は悔しくて俯いた。

「…バカ鏡夜」

「なんとでも。おばかさん」

「む、私はバカじゃないわ」

「そうか?俺にはがらにもなく照れてる竜胆の姿が見えるんだが?」

あぁ、この人はなんてずるいんだろう。この人の言葉で助けられて、行動でドキドキさせられて。私ばっかりで悔しいったらありゃしない。これが計算ではないのなら天然たらしよ。環並だわ。――…気付いてしまった。彼等は私を女として見ていないから、だ。自分でそう言ったのだった。それを思い出す。ならば尚更都合が良いはず。今の私にとっては。竜胆は顔を上げた。

「竜胆?」

「残念ね。照れてないわよ。暑いのよ。私は暑さに弱いんだから日傘持ってこよー」

今日は何だか日差しが強いみたい。いつも見上げる空が眩し過ぎて直視出来ない。




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