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「環様、残念ですわ…ぜひうちのパティシエ特製のチョコを召し上がって頂きたかったのに…」
「悲しまないで姫…きっとこれでよかったんだ…どんな高級チョコも僕らの愛の熱さの前には溶けて消えてしまっていただろう…元より僕らの間に形ある約束などいらないのだから…!」
環の小芝居を見ながらこちらの心配はするだけ無駄だと思った。ハルヒからチョコを貰えないから落ち込んでいるかと思いきや。
「「さっすが殿。ナイス小芝居」」
「よくも次から次へと甘いセリフが思いつくわね」
「ぬかせ!いかなる時も優先すべきはお客様の笑顔だろーが!」
そもそも女性に物を贈らせるなど紳士失格!環の母国では紳士が女性に花束を捧げるのが主流で――…なんて環は最初と言っている事と正反対の事をつらつらと語っていた。
「案外ハルヒにチョコももらえない事を正当化したいだけだったりしてな」
鏡夜の一言で環は一瞬にして膝を抱えた。あまりにもかわいそうで竜胆は環の頭を撫でた。反するように相変わらず鏡夜の機嫌が良い。それは光邦のお菓子代が浮いたからだと思っている。
「ねぇ、環。お願いがあるの」
「ん?何だ?」
「バレンタイン自体は中止にしないで欲しいのよ」
「…俺も考えてた」
「バレンタインって女の子には特別な日だしね、甘い物は禁止でもプレゼントなら可、とか。この日ばかりは気持ちを伝えるのに少し勇気が貰える。それに最近の日本では感謝の気持ちもバレンタインに伝えるらしいのよ」
最近よく聞く友チョコ等等。日本には色んな文化が増えていくわね、竜胆は小さく微笑んだ。それに対して環も微笑んだ。竜胆の頭に手を伸ばす。普段あまりされない事で竜胆は軽く首を傾げた。
「竜胆はいつも誰かの事を考えているのだな。すごいよ」
「急にどうしたの環」
「たまには自分の事を考えてくれれば良いものの」
「あら、私の事は環や鏡夜が考えてくれているのだから充分よ」
竜胆と環は微笑み合った。
終
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