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「まぁ、ハルヒちゃん。言葉が悪いわよ〜」

竜胆は笑顔でハルヒに近付き重そうな一つのビニール袋を持ち上げた。その際に長いスカートがひらりと揺れる。

「竜胆先輩って私服は女性物を?」

「え?どちらも使うけれど、今日は環ご所望で。何でもハルヒちゃんのお父様に会うから少しでも印象が良い方が良いと」

余計なお世話だとハルヒは眉間に皺を寄せた。それに気付かずに竜胆は自分の後ろに来た崇を見上げた。崇は視線を手元に移すと竜胆からビニール袋を奪い取った。流石モリ先輩。一番紳士かもしれない。ハルヒが大家に心配されて、その誤解を解く様に環が大家に話しかけている間にその他部員は鏡夜先導のもと階段を上がって行ったからだ。竜胆もそれを慌てて追いかける。

「ちょっと!勝手に事を進めないで下さい!」

203藤岡という表札を確認し、ハルヒは渋々見るだけという条件を出した。

「見たらさっさと帰…」

「ハルちゃん☆ケーキあるよ〜☆いちごのとチョコのとね〜」

「今日のケーキは私とハニー先輩おすすめのお店の限定品なの。とっても美味しいわよ〜」

ハルヒはそれを聞いて少し考えた後、

「…それ食べたら帰って下さいね」

家へ入る事を了承してくれた。そして家の中は竜胆達が初めて見る風景が広がっていた。

「2Kか。庶民親子二人住まいならまあ…」

「ハルヒサイズならまあ…」

「大変かわいらしいお部屋だよね〜」

なんとも下手なフォローだった。確かに藤岡家の住まいは彼等にとって小さい、狭いとしか言い様が無い。天井は低いし、下手をしたら車庫よりも狭いレベルだった。

「ハルちゃん、お靴は脱ぐの――?」

「ハイ、是非」

「「んじゃ部屋ばき貸してヨ」」

「え!?」

ハルヒはその言葉に驚き、慌てて靴箱とお歳暮を探し始めた。頑張ってハルヒはスリッパを用意するもそれを必要としたのはたったの1.2メートル。それからは座敷だ。それを見てハルヒは無駄骨だったと溜め息を吐きながら勝手に座敷に入って行った男達を見送った。が、そこにいない一人。

「竜胆先輩?どうしたんですか、靴も脱がずに」

「あんまり部屋ばきは使用しないの?」

「…そうですね。この距離ですし。自分で使うのはキッチンに立つ時くらいですよ」

そうなんだ、と言いながら竜胆は靴を脱ぎ、それを揃えた後ストッキングのままスリッパに足を通す事無く足を踏み出した。

「お邪魔します」

律儀に頭を下げる竜胆に少し感動するハルヒだった。


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