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「え、竜胆ねぇ?何、その仮装。あー…まー…この怪我って言うのは…」

何かいたずらの途中なのかしら?竜胆は馨の手から包帯を奪ってそれを丁寧に巻いて行く。

「ま、楽しむのは良いけれど程ほどにしなさいよ?じゃないとハルヒちゃんに嫌われちゃうぞ」

「……ねぇ、竜胆ねぇってどうして僕らの考えてる事分かるわけ?僕の居る場所とかさ」

そう言われて竜胆は首を傾げた。どうして分かる?むしろどうして分からないのかが分からない。正しく言うならば勘と言う方がピッタリだろう。

「馨と光ならハロウィンくらい何かしそうでしょ。去年もそうだったし。後は場所だっけ?馨の居る場所が何で分かるのかなぁ。遠く血が繋がっているから?それとも同じように双子だから?それともそれとも昔は二人と一緒にいたずらしてたからかな?」

はい、終わり。と竜胆は余った包帯を馨の手に戻した。そしてその手を馨の頬へ伸ばした。馨は首を傾げた。

「…それじゃ分からないよ」

「人って変わるのよ。そろそろ私には馨と光の事分からなくなってくるかもしれないね」

「どういう事?」

「去年の自分達を思い出してみてよ。去年は何してた?ずっと環と一緒だったよね。それが今年は何人に増えた?今日誰と話した?それに最近二人の行動や言動に若干の違いが出てきてる事に気付いてる?」

竜胆はニッと微笑んでからヒラヒラと手を振ってから歩き出した。その後ろ姿を馨はじっと見ていた。――ねぇ、光。竜胆ねぇは本当に凄いよ。

ま、呪いは光と馨のイタズラだという事が分かったしそれに対して心配する事無い。それにしても暇だ…竜胆は小さく呟いた。この格好をしているせいか先程から誰からも気付かれない。わざとその格好を選んだのだが、寂しい気がしてきた。廊下を歩いても逃げられる事はないが一瞬の内に興味が薄れて話しかけられる事はない。まるで空気に近い。そんな中でぼんやりと考える。先程馨に言った言葉。去年の自分は何をしていた?去年と言うのが正しいか分からないが、ホスト部が出来る前の話ならよく覚えている。近くに居る人を疑っていたのかもね。あの頃は鏡夜も環も信用出来なくて、いつも不安や恐怖と戦っていた。人と喋る機会が少なくて、下手したら誰とも喋らない日々。牡丹の様に、牡丹の様にと頑張っていた。もうそこに居たのは竜胆なのに。

「寂しかったな」

あの時は寂しくて、誰か私を見て。誰か私を見つけてって。ここに居るんだからって心の中で叫んで――…

「竜胆。ここに居たのか」

そんな声が聞こえて竜胆は勢い良く振り返った。小さな隙間から見えるのは見慣れた顔。竜胆は何も言えずに固まっていた。

「おい、竜胆だろ?」

鏡夜はそう言いながら竜胆の獣の被り物を勝手に奪った。そこから現れたのは着ぐるみの暑さで顔を赤らめた美女だった。

「…何で分かったのよ」

「こんなアホみたいな格好をするのはお前くらいだろう?孤独な野獣が居ると聞いて、ふと美女と野獣を思い出した。そうしたらお前の言う“一粒で二度美味しい”の意味にもあてはまる」

鏡夜はまるで勝った、と言うような笑みを浮かべていた。当然そこには腹黒い要素があって爽やかには見えなかったが、竜胆は微笑み返す。

「…私は鏡夜に見つけられたのね」

「は?」

それはあの頃の私の話。竜胆は野獣の変装具を脱ぎ捨てて美女となり鏡夜の腕に自分の腕を絡ませた。

「ねぇ、神父様。どう?美女と浮気する?」

「…神に忠誠を誓った男を唆すのか?」

「あら、今時の神父様は職業よ。結婚だって自由じゃない」




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