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自分の事を“竜胆”と呼んでくれるのは桜蘭ではホスト部員達だけだった。そこから出れば自分はいつも“牡丹”“牡丹の君”。最初は返事出来なかったそれも今となっては自然に振り向いてしまう自分。同じ顔の人間に成り代わっていく、気付けば竜胆の影が自分の中から薄れていっていく感覚。

「ぼくの知ってるぼたちゃんって名前の人はもうりんちゃんなんだよ〜?」

「え?」

「だって〜僕と崇は本当のぼたちゃんの名前くらいしか知らないもん、ね、崇?」

「あぁ、今目の前に居る竜胆だけだ」

先輩の言葉に竜胆は満面の笑み。

「竜胆ねぇは僕等の事分かってくれるけど」

「僕等だって竜胆ねぇの事分かってるつもり」

「なかなか興味深い話をしてるな?」

今まで黙っていた鏡夜が無表情のままソファーに座り込み、長い足を組んでコーヒーを一口飲んだ。

「「鏡夜先輩も何か言ったげて」」

「…――柊牡丹。桜蘭幼等部の頃からAクラス。家柄、成績共に優秀。だが協調性が僅かに欠けており一人を好み、基本は一人で行動。特別親しい友人は無し。部に所属する事も無い。そんな牡丹と竜胆のどこに共通点が?家柄成績だけだろ」

突然何を言い出すのかと思えば牡丹の紹介。確かにそこは竜胆とかぶる点は少ない。

「鏡夜」

「不服か?なんなら竜胆の紹介文も読み上げてやろうか?」

「やめて。恥ずかしいからもうやめてよ、何なのよ、皆。恥ずかしい事ばかり言って」

竜胆は頬を染めながら視線を泳がせた。そんな竜胆を見て微笑む面々。

「「竜胆ねぇが珍しく照れたー!」」

「そ、そりゃ私だって照れるわよっ!」

「りんちゃん、かわい〜☆」

「もうっ、ハニー先輩からかわないで下さい!モリ先輩もそんな慈しみ溢れた顔で頭を撫でないで下さいよっ!…鏡夜!あなたはさりげなく笑いすぎなのよっ!」

もうなんなのよ。ペースが崩される。桜蘭でペースを崩す人がいるならば間違いこの人達だと思った。そこから見える空は生憎の雷雲だったが、それでも竜胆は空を見上げた。
――ねぇ牡丹。あなたが他人と一線引いた人達はこんなにも素晴らしい人達だったのよ。まるでテレパシーでも使えるかのように竜胆は頭の中でそんな言葉を彼に送った。




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