「でさ、司は牧野、あきらは一人連れてくるんだと。で、俺は類の分まで女の子を調達する必要があるわけで――」
何で私がこんな事を聞かなきゃならないんだ?光は首を傾げた。手帳を取って今日の予定を確認すると、バイトはないが華道の時間はいつもより一時間長いし、そろそろピアノの復習もしたい。フランス語会話も今日は先生に小論文を発表する日だと言うのに。
「おい、光!聞いてんのか?」
「聞いてますけど…で、それを私に言った所でどうするんです?」
「だから、お前類とがいい?それとも俺とがいい?」
「何の話ですか?」
「聞いてねぇじゃん!」
西門は大きな声を出した。何でも道明寺が今度道明寺家所有の島にパートナー同伴で行くから、つくしが気軽に来れるように女連れて来いとの事。それに光を誘おうと思っているのだが、光は先程から手帳と腕時計を気にしているようだった。
「だーかーらー、お前……処女?」
「それ聞いてどーすんの」
つーか、昼間からカフェで言うような言葉でもない。場をわきまえて欲しい。
「その反応は処女じゃねぇな、よし。お前類とパートナーな」
「だから、意味が分かりませんってば」
何の話だ?光は本当に話が分からなくて首を傾げた。さっきから聞き流していた事を聞き返されても困る。
「まぁ、いいや。手帳貸せ」
「は?」
貸せと言うわりに西門は光の手から手帳を奪った。手帳に挟まった黒ペンを取り出して、先の予定に横線を引いて消した。
「ちょっと何してんの?」
「だから、島!島行こうぜ!」
「行かないわ!そんな時間があるなら私は勉強する!」
「…なぁ、お前さ、何でそんなに勉強に拘るんだ?華道の腕前だって悪かないだろ?確かに上に行けるけどよ、その歳じゃ充分だろうが」
「…まだまだなんだ。私には夢があるの。自分偽ってでも叶えたかった夢だよ。だからね、簡単に投げ出したりしない」
またこの目だ、西門はそう思った。芯の通った人間がする目。静がしていた目。目の前の人間もそれと同じ。力強い視線は自分に無いものだった。
「島へ行くのを誘ってくれたのは本当に嬉しいんだけど、日焼けしちゃったら格好つかないし。でもね、誘ってくれて本当にありがとう!皆にもお礼言っておいて。今度は行けるように頑張るから」
「つまんねーの」
「私居たらもっとつまんなくなるよ、ほら、仮にも婚約者だから」
「お前そういうの拘らないだろ?だから良いってのに」
「拘ったらキリが無いじゃん」
一々口にしたら面倒過ぎて疲れるよ。光は笑顔を向ける。俺がこれから女と旅行に行こうが何も気にしない。本当にいつか結婚さえすれば満足するって事か。まぁ、俺もそうだ。好きだ惚れたは面倒だ。一夜限りの付き合いでお互い本気にならない方が楽でいい。だからこそ、こいつは一緒に居て楽。女として見ていないから、か。西門はぼんやりと光を見た。
終