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幸いにも光と西門の噂はそこまで広がってはいなかった。なんせあの道明寺司と牧野つくしの噂の方が面白くて仕方ない。が、視線はやはり冷たいものだ。物が無くなる等のいじめはないが。それに今更そんな視線が気になったりはしない。どうせいつも一人だったのだから。光は俯く事なく前を向いて歩き出す。

「…地味でブス」

通りすがりの女子にそう言われ、光は流石に振り返った。そこに居たのは可愛らしい女の子。だが、悪意が見える。光が睨んでいる事に気付いてか、応戦するようにその女子は光を見る。

「西門さんと噂になってるって言うからどんな女かと思えば、地味、やっぱりブス」

改めて言うな。光はあからさまな溜め息を吐いてから、眼鏡の奥からその女子を睨む。

「私がブスならあなたは性格ブスだ、ブス」

「なっ…」

光は嘲笑を浮かべてその女子を見た。残念だったね。確かに見た目は地味かもしれないけれど、これでもスカウトされた事は何度もある。それに性格は地味じゃない。むしろ、やられたらやり返すタイプ。先に手を出して来なくてあなた正解。光はその女子を見下ろす様に見た後スカートと長いお下げを翻して進むべき道を歩く。

「…私は間違っていない」

飾り物の眼鏡も地味を演出する為のお下げも、全て考えがあっての事。波風立てたくないの、私は。女子から陰湿ないじめも受けたくもないし、媚びてるなんて言われたくもない。光の頭の中には中等部の頃の記憶。まだ英徳学園高等部に入る前、光は英徳ではなく別の学校に通っていた。その頃はこんな眼鏡もお下げもしていなかった。普通に過ごしていた。だが、色恋沙汰に敏感な女子には反感を買ってしまったらしい。男子は苦手、なんて言う生粋のお嬢様でも無かったわけで…。

「…まぁ、やり返してたか…」

自分の中学での行いを思い出す限り、とても褒められたものではなかったからなぁ。警察沙汰にはならなかったけれど。それを教訓とし、英徳では出来るだけ地味に過ごしていたわけだ。だからって見ず知らずの女子にブスと言われるとは…失礼にも程がある。女子のいじめは陰険だからなぁ。いくらそういうのが慣れっこだと言っても嫌なものは嫌だ。いつかやり返す時が来るだろうか。そんな事を考えながら光は手帳を手に取った。

「今日の予定は華道茶道、バイオリンの後バイト、パーティーに顔出して…」

分刻みのようなスケジュールに溜め息が出る。どれだけ売れっ子なんだ、私は。でも、まだまだ。自分の実力が目に見えるからこそ諦めない。

「神童?笑わせんなー」

一番認めて欲しい人に認めてもらえない神童の名なんていらない。

「あぁ!くそ!」

光は走り出す。歩いてるだけじゃ時間が足らない、そう思った。



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