気が済んだのか、飽きたのか分からないが道明寺は店から出て行った。ざっと店を見渡すと悲惨なありさま。西門は空手で段を持っていると言っていたし、道明寺はそれ以上…そんな二人が争うとこうなるのか、と学んだ。光は壁に寄りかかる西門に近付こうとする度にパリンと音がした。皿やグラスの割れた音だった。
「…ったく!ありえねー!くそっ!」
そう言う西門はあちらこちらから出血していた。
「でも、格好良かったです。総二郎さん」
バッグからハンカチを取り出して光はその血を拭う為に手を伸ばした。ポンポンと優しく血を拭う。西門はそれをつっと息を飲みながらもされるがままだった。
「お前は何でいんだよ…あぶねぇだろ」
「…言っておくけど俺は止めたからな」
美作の店の有様を見て溜め息を吐いた後、西門の所まで歩いてきた。こりゃ弁償だなぁ。好き勝手暴れやがって…また溜め息を出しそうになる。
「男同士の熱いケンカ好き」
こんな時までそれかよ…西門は深い溜め息を吐いた。
「すいません。店の状態はなんとかするので、とりあえず救急箱をお借りしても良いですか?」
光は近くに居た店員に声をかけ、その店員の後を着いて行く。それを美作は見送った後目の前の西門に言う。
「……光ちゃんさ、総二郎が司は殴ってでも止めるって言ったから、それを見てなきゃいけないって。だから残ったんだと」
「…あいつバカじゃねぇの。…止めようとしたんじゃねぇし、ただむかついただけだっての…」
「そりゃ光ちゃん本人に言えよ」
なんつーか、こっちもこっちで素直じゃねぇな。美作は小さく笑った。
「総二郎さん、とりあえず応急処置しましょう。早くしないと綺麗な顔に傷が残っちゃう」
早く座れ、光は西門に目で訴えた。西門は渋々立たせた椅子に座った。
「口元は出血。これ自分の歯で傷つけましたね。口内切れてるんで冷たい飲み物は沁みますね。後は殴られた時に爪でひっかかれましたね。これは絆創膏と。頬はー…腫れますね、これ。傷もあるので湿布よりカーゼですね、これ。後額に何か当たった?若干切れてる、これは絆創膏で充分。手はちゃんと消毒しないと」
一通り説明しながら光は手際良く西門の手当てをしている。
「…何でお前そんな手当てに慣れてんだ?」
「何でって私小さい頃は怪我ばかりしてた子だから。自分で包帯も巻けちゃいます」
それは良い事なんだか、悪い事なんだか。西門は手当てする光の顔をジッと見ていた。
「ん?どうかしましたか?痛む?」
「いや、平気」
「はい、終わりました。折角の男前が台無しだけど、私は名誉の負傷って感じで結構好き!」
「アホか!」
西門は頬に貼られたでかいガーゼを手で触って溜め息を吐いた。
終
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bkm