「あれ、つくし。そんなに急いでどこ――」
行くの?と言い切る前につくしは光の横を走って行った。
「あいつに恥かかせてやんのよっ!」
「ちょっと待ってよ!」
落ち着けー!光のそんな声は怒り心頭中のつくしには届かない。光は慌ててつくしを追いかけた。目立つ人達でよかった。そして光はつくしを追いかけてカフェテラスまで来ていた。
「坊ちゃん。御婚約おめでとう。よくもからかってくれたわね」
あぁ、もう。突っ走り過ぎだよと光は額を押さえた。道明寺婚約の話を知らない西門と美作は呆然としていた。
「なに言ってんだ、お前。あの状態見て俺が事前に知ってたと思うか?ありゃババアが勝手に決めた事なんだよ」
「ふーん、そう。それにしちゃ二人仲良く出て行ったわね」
「あれは間違えたんだよっ」
「おい、なんの話をしてんだよ!」
そういう美作の為に光は小声で美作と西門に状況を説明する。
「簡単に言いますと、つくしは道明寺さんの母に呼び出されたと思えば、そこには道明寺さんとその婚約者。道明寺さんは逃げる際につくしの手とその婚約者の手を間違えて、その場から居なくなったみたいです…」
「「はぁ?」」
「なめないでよッ!結婚前のお遊びにあたしを使おうなんて冗談じゃないよっ!」
「おいっ、ちょっとまてっ!」
つくしは引きとめようした道明寺の腹に蹴りを入れ、そのまま居なくなってしまった。光は慌ててそれを追いかけた。
「つくし!」
「…光」
「…あたしは断ろうと思った。ショックなんかじゃない。むしろ遊ばれた事に腹を立ててる」
あぁ、まだ怒り心頭中か。光はつくしの隣に座って問いかけた。
「…道明寺さんが結婚前の遊びなんかすると思う?それにつくしを選んだ?私にはそれが想像出来ないなぁ。知り合ってそんな長くないけど、そんな風には見えない。ましてや総二郎さんじゃあるまいし!」
あの人の女とっかえひっかえはすごいよ!光はつくしを笑わせたいが為に自身も笑いながら言った。
「苦労しそう。婚約者か…。それにしても道明寺家に釣り合うくらいすごいお嬢さんなんだろうね…」
「だろうね。あの道明寺さんのお母様がいいって言うくらいの人だからね。どんな人だか分からない?もしかしたら私も知ってるかもしれないし」
少なからず上流階級の人達とは交流がある。その婚約者を知った所で何にもならないけど…。
「ボーイッシュなショートカットの……そうそうちょうどあんな感じの」
つくしは目の前に女の子が居る事に気付き、光もその方向を見た。こちらを見ているようだが、大きなサングラスの為に誰かは特定出来ない。そしてその人物はサングラスを外し、声をあげた。
「あーっ!やっぱり昨日いたよね、メープルに」
「は…はあ」
「つくし、知り合い?」
「英徳の生徒だったんだ、へええ」
光は小さく頭を下げた。どうやらつくしの知り合いそうだから席を外そうとした時、つくしの手が光の制服を掴んでいた。