「…どうでしょうか…」
「まだまだね。甘いわ」
祖母の言葉に光は肩を落とした。何が良いんだろう、何がだめなんだろう、それすらも自分で考えなければならない。そもそも華には答えが無い気がした。
そもそも自分はどちらかと言えば理系。答えがはっきりしていない物は苦手だった。片付けと着替えを済まし、光は自室へと戻った。そこにあるのは殺風景な部屋。ベッドとテーブル、ラックにテレビ。余計な物は何も無い部屋。光はテーブルの上に置いてあった物を手にとってそのままテラスへ出た。テラスにははしごがかけられていて、屋根へと上がる。
「…まだまだだって」
祖母に言われた言葉を思い出し嘲笑。煙草を銜えて火をつけた。ぼんやりと風に溶けて行く紫煙を見ていた。それだけなのに涙が出そうになった。自分はきっと物凄く疲れている。平気と言ったけれど、自分の身につく事は嬉しいけれど、それだけではなかった。学園で一人きり、学園の外でも一人きり。笑い合う事なんかなくて、いつも時間に追われている生活。
「…あの人の言う通りにしておけば良かったのかなぁ」
ぽつりと呟いた。息抜きの方法なんて私は知らない。体を動かしてもその間は集中出来ても、ふと我に返る時がある。空を飛ぶ鳥をぼんやり見ていた。気が付いたら火種が手の近くまで来ていて慌てて火をもみ消した。そして立ち上がる。屋根からそのままテラスに飛び降りた。
「さて、出かけるかな!」
光は煙草臭い服を脱ぎ捨てて新しい服に手を伸ばした。
「あ、おはよう、牧野さん」
「おはよう、宮永さん」
「そう言えば牧野さん、ハワイ行ったの?」
「え?」
そうか、私が知っているのは不自然なのか、光は咄嗟に嘘を吐く。
「あ、松岡さんに聞いて」
「あぁ、行ってない行ってない。熱海に行ったんだけどさ、あいつらも熱海来てんの!もう最悪!」
あのね、私も英徳に…そう言えば価値観の合う友人になれるだろうか。バイト先の仲間じゃなくて友達になれるだろうか。光はそっと目を閉じた。
「ねぇ、宮永さんは好きな人いる?」
「好きな人…いるって言えばいる?」
「何それー!」
「牧野さんはいるんだ?好きな人」
光は自分の話を逸らすように笑みを浮かべて聞き返す。
「え!?好きな人って言うか…宝物みたいな人」
「うん、素敵。分かるな宝物。大事過ぎてドキドキして、でも触れられない、壊してしまいそうで」
それは光の思い出の中に。つくしは光の言葉に首を傾げた。
終
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