「あきらさぁん!」
「「「………」」」
「ごめん、自分で言って気持ち悪いと思ったから謝る」
これはうけるも何も失敗したと思った。先日名前で呼んでくれと言われて、ならば試してみようと思い切り手を大きく振って駆け寄ったが、何か場違いだったらしい。
「あ、道明寺さん、先日はお世話になりました、ありがとうございました」
光の丁寧なご挨拶も今の司には何も聞こえないと同じ。軽く頷くだけの返事があっただけマシだった。
「…まだつくしと会っていないんですか?」
光が西門に近寄って周りに聞こえない程度の小声で言うと西門は困ったように頷いた。
「あ、あきらさん、先程は失礼しました。先日はありがとうございました」
「いやいや、いーよ。俺も楽しかったから」
「何かお前等やけに仲良くなってね?光も名前で呼んでるし」
「…あきらさん、総二郎さんがやきもちやいてます、どうしましょう」
「…総二郎は案外ピュアだぞ」
「お前らこの前からそれうぜぇよ!」
その連帯感はなんだってんだ!西門はにやにやしながら見てくる二人を睨みつけた。ここでつくしを待っているのだろうか、一向に動こうとしないF4の三人。きっと道明寺さんはつくしに謝る機会を伺っているに違いない。
「それじゃあ、私は」
つくしに会えるだろうか、教室まで行くのはなんとなく違うし。光は自分の教室へ向かう事にした。会ったら普通に挨拶しよう。それで何気ない会話をしよう。いつでも相談に乗るからね、そんなオーラを振り撒いてあげよう。
「つくし!そっちも移動?」
「あ、光、おはよう。そう科学室に」
光はジーッとつくしを見た。それにつくしは怪訝深く光を見返す。
「…何?何かついてる?」
「…べっつにぃ」
何も言う事無いならそれでも良いんだ。光はぷいっとそっぽを向いた。
「優紀ちゃんとデートしてやるんだからね」
「へ?ねぇ、光。どうしたの?何かあったの?」
あったのはつくしの方じゃないか。そう言いたいけど言わない。つくしから友達って言葉を言わせたりはしない。
「あ、つくし。膝すりむいてる。絆創膏あげる」
「あ、ありがと。さっきのだ」
「さっき…?」
まだ嫌がらせを?光は眉間に皺を寄せた。それに気付いたつくしは慌てて訂正する。
「違う違う!さっき階段踏み外しただけよ」
「そう?…それなら良いんだけど…何かあったら言ってよね。私も軽くいじめられる身だから、相談に乗れるかもしれないし。やり返すって言うならコツ教えてあげるから!」
「それはいいってば!」
つくしは拳を見せる光に相変わらずだなと笑いを零した。あたしのせいでもう二度とあんな怪我をして欲しくない。つくしは相談したい気をなんとか堪えた。光になら、この学園で唯一の友人になら言えるかとも思った。だけれど、光はお嬢様だ。庶民のあたしとは住む世界が違う。拒否をするわけじゃないけれど…光には歩み寄れたかもしれない。気さくに話しかけられる。だけれど目の前に大きな何かがある気がした。
終
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