「あ、光。お前も司ん家行くか?牧野に着付けでも華道でも何でも教えてやって――…って、お前どうした?」
「…総二郎さん、大変な事になった」
「何だよ」
前回悩んでいた事を引き摺っていたのか?いや、それはないだろう。元気出たと言っていたし。神妙な面持ちの光と反面西門は軽く答えた。西門にとって大変な事とはあまり起こらない。他人の言う大変な事は西門にとってあまり大変な事ではないのだ。
「…もうすぐ冬休み、だよね」
「そりゃクリスマス・イブからな」
何当たり前な事を言ってんだ?眉間に皺を寄せると光はバッグから手帳を取り出した。予定が書かれた愛用の手帳だった。
「それがどーした。はっきり言えよ」
「…これ見て!」
ページを開いて西門に押し付けるといつもはびっしり書かれた予定はクリスマス・イブ以降から大晦日まで白紙になっていた。いや、違う。よく見れば物凄く細く震えた様な字でこう書かれていた。
「…西門家で花嫁修業…?」
「……おばあさまがそろそろ西門家の伝統や家の事も学んでおいた方が良いだろうって…!私はまだ嫌だって言ったんだけど、訊いてもらえなくて…!」
自分が抗議した所で何も変わる事はないと思ったけれど、形だけでも抗議した光の努力はやはり形だけで終わってしまった。婚約者と言えど二人の間に特殊な感情なんてない。互いの家に住むだなんて面倒だ、しかも西門は家の事をそこまで好いていないのが分かる。光は面倒な事になってしまった、なんて事してくれるんだよ…そう言う西門を想像していた。
「へぇ、良かったじゃん」
「…へ?」
素っ頓狂な声が出た。怒るとかめんどくさがるとか色々あると思ったが、西門の反応は予想外だった。
「だって、お前いつも予定びっしりだろ?休めって言っても休まねぇし、むしろ空いた事に感謝しろ。で、息を抜け」
「…何で?面倒じゃないの?」
「いや面倒だろ。お前が一日中家に居んだもんな。でも、俺は自由に外に出るつもりだし、お前も軽い気持ちで来りゃ良いじゃん。ばあちゃんの目なんか気にしないで夜中まで遊べるんだぞ?朝帰りしても誰も気にしねぇし」
…呆然、驚き。何でそんな笑顔で言うの?私の事を考えてくれた?
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bkm