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「暇だよな…司今頃何してんだろ」

西門が呟いた言葉に光は声を出して笑った。それでも店内の為光なりの控え目。少しの視線が集まった。

「遠距離恋愛して彼氏の帰りを待つ彼女か!」

「ちげーよ!うっせーな!やっぱりいつも一緒にいっからさー急に居なくなると寂しいもんだろ」

「私幼馴染いないから分からない。そもそも暇つぶしに私を呼ばないでくれる?大好きな女の子達はべらせてなよ」

ここのモカが美味しいから来てるだけなんだからね。光は呟いてからカップに手を伸ばした。

「それは暇な時間にやるもんじゃなくて、決まった時にやるもんなんだよ」

そんな持論を語られても困るんですが?一体私にどうしろって言うんだよ。あ、と光は思い出したように声を出した。

「総二郎さん家行きたい」

「はぁ?何でまた」

「お茶点てて欲しいんだ。どうせこうやってぐだぐだ過ごすんなら、何か身になる事したい。略式で良いの。ね、お願い」

この前自分からお願いする事は珍しいとか言ってたくせに、結構頻度高くね?まぁ、仮にも婚約者なので家にこいつを呼ぼうが母親は何も言わないのは事実だった。光お気に入りのカフェを出て、西門家へ向かい、茶室で茶を点てる様を光はジッと見ていた。

「そんなに見て楽しいのか…?」

あまりにも熱心に見ているものだから逆に視線が気になってしまう。

「楽しいと言うか…勉強になる」

そう言いながらも光の視線は手元から動かない。

「ほらよ」

茶器を手にとって、その色をじっくり見て、光は西門が見ている事にも気付かない。それほど集中していた。

「…結構なお手前です」

「そりゃどーも」

「…悔しいな…美味しいお茶ってこういう事を言うんだね」

同じお茶に同じ道具を使っても今の私には出来ない味だ。自然と負けが決定したようで溜め息が出た。

「そりゃな、ガキの頃から親しんでりゃこんなもんだろ」

「…ガキの頃から、か…。何歳くらい?」

「はぁ?そんなの覚えてねぇよ。幼稚舎に入る前からだろうな」

「…じゃあ、2年くらいか」

西門に聞こえるか聞こえないか、それくらいの声量だった。西門は何が2年だ?と返すも光の返事はない。2年の差は大きいと言うのか。光は小さな溜め息を零す。

「あぁー…悔しい!ね、ね、総二郎さん、私もお茶点てたい。何でも良いの。悪かった所教えてくれる?」

「…ん?まぁいいけど」

「ご教授よろしくお願い致します、先生」

先生…その響きもある意味悪くない。なんて煩悩を振り払い熱心な生徒に教える事にした。俺、何やってんだ?少なからず楽しんでいる自分に気付いた。



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