「…後悔しない?」
椿の言葉に光はあまり考える事無く口を開いた。
「多分後悔はいっぱいすると思います。だってやっぱり結婚するなら好きな人がいいじゃないですか……でも、今は総二郎さんもそこまで嫌いじゃないし、一応婚約となってますが、多分あちらから破棄を申し出ると思ってます」
「…何で?あちらにとっても良い縁談じゃない」
誰かに言えるような話でもない。光はそう言うように寂しく微笑む。
「私、これでもまだ諦めてないんですよ?最後の最後まで諦めません。大逆転があるかもしれないじゃないですか。私は父にそう教えられてきたんです」
「あら、宮永さんも粋な事言うのね」
のわりには娘に婚約者を連れてくるなんて。一体どういう事だろうか。椿の予想は裏切られる。
「いえ、私の本当の父親です」
ニッと光は笑った後煙草の火をもみ消した。残された椿は眉間に皺を寄せた。そして光は一度頭を下げてから室内に入った。
「あ、美作さん、何飲んでるの?美味しそう!」
「ん?カクテルだよ。光ちゃんも飲む?」
「はい、飲みたいです」
「…なぁ、光。お前煙草臭い」
「へぇ、不思議」
「煙草吸ってると舌鈍るぞ?それで俺の婚約者が務まんのかよー。それにまずくね?」
美作がカクテルを作っている最中、つくし、類、和也は酔っていて目が定まっていない。それを確認した上で光は小さく微笑んだ。まずいなんて子供だね。婚約者が務まるか?務まらないのならそれでも良いよ。光はそっと西門の頬に手を伸ばして、勢いで口付けた。そして一瞬舌を紛れ込ませた。
「やっぱりまずかった?お子様舌な総二郎さん」
「…お前舌入れんなよ。つーか酔ってんな?」
お互いなんともない。愛情が存在しないし、異性の生き物だという認識も甘い、キスも挨拶、形、名前だけの婚約者の二人には頬を赤くする理由も無い。
「…酔ってるって事にしておこうか」
私はこの人に嫌われたいのか、好かれたいのかそれすらも分からない。光はぼんやりとしたまま目の前の婚約者の顔をジッと見た。
「え、俺に惚れてんの?ねぇわ、それ」
「それこそねぇから安心しろ」
終
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