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「え、何お前ケンカした?」

「…人の顔見て第一声がそれかよ…違うわ、叩かれたの、おばあ様にね。お陰でこの顔で日展に出る」

西門は光の顔を見て呆然とした。光の左頬には大きな湿布が貼ってあったのだ。自分がしていた時は最悪だったが、他人のを見ると面白い。

「あはは!前例なくていーじゃん!」

「笑い事じゃない!ちなみに母の平手はかわしてやった。すごくない?」

それを誇らしげに言うのだから面白いと西門は声を出して笑った。

「で、何の用?私これから会場に行かないと」

「別に来たっていいだろ?返事聞かせてもらいに」

「…大事な試合の前にいらん心配かけんなよ」

これで動揺してミスをしてしまったらどうするんだ。光は眉間に皺を寄せた。でも、何故か緊張していない自分が居た。このまますぐに落ちようがそれは仕方ないと思えたのだ。きっと後悔はしない。また次を頑張れる、そんな自分が居たのだ。

「…じゃあさ、今日終わるの待っててよ。部外者は入れないから会場前でね。その時言うよ、私の気持ち」

ずっと隠してきた気持ち。言いたかったけれど臆病な私は何も言えなかった、ずっと心の奥底にあった気持ち。言う時が来たのだ。これは単なるきっかけに過ぎない。私はもう大丈夫。もう逃げないよ。だって総二郎さんが変わったんだもん。私も変わりたくなるじゃない、せめて近付きたくなるじゃない。

「…おう」

「だから今だけはそういうの一切無しにただ応援してて」

「任しとけ。日展って審査匿名制だっけ?」

「そうそう。おばあさまも審査員の一人だけど、どれが私の作品か分からないから、審査はちゃんと公平。だからこそ私の実力が試される」

そういう勝負が好き。真っ向から勝負している気がする。私がつぎ込んだ11年間を今日全て注ぎ込む。勿論不安はある。でも不安よりも楽しみ。壁は大きい程燃えるのが私の本性。

「…私さ、お嬢様なんかじゃなくて、お金は無くても昔みたいに野原とか山駆け回っていたかったってずっと思ってたの。だから自分の母を恨んでいた。だけど、今になってこの人生も悪くなかったって思えるよ。つくし達に出会って私は大事な事を何度も思い出した、教えてもらった」

今あの時の彼に会ったら私ははっきりと言えるだろう。あの時の気持ちは本当だった。ありがとうと。初恋と再会した二度目の恋は全部本当だった。そして私は三番目の恋を終えようとしていた。だが今それに転機が起こった。

「総二郎さん、ありがとう」

こんな私を認めてくれて。こんな私を好きだと言ってくれて。とても大事な人の存在が身近にいると自分が強くなれる、それを思い出させてくれて。

「私は今最強だ」

無敵のパワーを持っているみたいに自信が満ち溢れてくる。

「頑張ってこい」

「おう」

私らしく笑える。私らしく花を生けれる。“花は人の心である”私が見せる花は今最高に輝く。



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bkm
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