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光が好きそうな場所なんて思いつかない。あのいつものカフェか花畑か、屋上か。その程度。背筋をピンと伸ばして一冊の本を読む彼女を見つけたのは二度目だった。あの頃と何も変わらない。着物を着ると自然に伸びる背筋は美しく見せる。それは染み付いてしまった習性で今更変えろと言われても変えられない。そして艶やかな長い黒髪は人の視線を集める。読んでいるのは洋書でその雰囲気には似合わない。日の光りが眩しくて伏せられた睫毛は影を落とす。

「見つけた」

その声に光はゆっくりと顔を上げた、そして優しい日の中で微笑む。

「見つかっちゃった」

で、何が?見つけたと言うからつい見つかっちゃったと言ったもののよく分かっていない。

「…とりあえず帰んぞ」

「え?」

西門は強引に光を椅子から立たせ、会計を済ませた後もそのまま光の手を引き歩く。

「ちょっと、総二郎さんっ!こっち下駄なんだからさ、もうちょっと気を遣って――」

「今お前の親が必死でお前探してんだぞ?」

「あぁ、そうだった…」

連絡しなかったけれど、まぁどうでも良いや。それくらい。

「心配かけてんじゃねぇよ。しかもお前昨日の格好のまんまじゃねぇか。今までどこいたんだよ!」

何をそんなに怒っているのだろうか。西門は光の方に向き直った。

「どこって普通に色んな所歩いてただけ。携帯電源切れたから連絡出来なかった。公園行ったりして時間潰して店が開いたらそこで本読んでたの」

お金はあった。帰ろうと思えば帰れたし、電話をしようと思えば出来た。だけれど、全てしなかった。

「ねぇ、総二郎さん。少しは心配してくれた?」

「……当たり前だろ。がらにもなく走ったっての」

あぁ、あいつらにも連絡しとかねぇと。西門は携帯を取り出して美作にかけると後は連絡網方式で伝えといて。そう言って電話を切った。光はそれを笑顔で見ている。

「…俺さ、お前に言わなきゃいけねぇ事あるって言ったよな?」

「うん」

「光もあるっつってたけど、俺が先で良いか?」

それは構わない。光は頷いた。

「……俺、お前の事好きみてぇ」

「………は?」

西門の突然の告白に光は目を見開いた。あれ、とうとう耳悪くなった?自分の耳を疑う程だった。

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bkm
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