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「ジローはいつもそうだった、大事な事はいつもあたしには言ってくれない!どんなにそれが寂しかったかわかる?ここに来られるのがいやならあたしにそう言えばいいよ!」

「追いかけてあげて、早く!早くっ!」

静かな家というのはそういう所が困ると思った。大声を出せば結構離れていても聞こえてしまう。和風の佇まいのこの西門家なら尚更だった。光は聞いてしまった事をどうにも出来ないと引き返して別の廊下から玄関に向かった。そしてただ歩く。今日はひたすら歩きたい気分だった。下駄で歩いてももうタコすら出来ない下駄に慣れてしまった足で歩き出す。家に帰りたい気分でもない。

「わぁ、彼女和服美人だね〜これからどこ行くの?」

「やめとけよ。超清純そうじゃん?遊んでくれねぇよ」

ナンパの声も素通りして光は歩く。自分で決めた事を後悔しちゃいけない。そもそも良く分からない。あの人は誰が好き?更さん?それとも優紀ちゃん?だいぶ前に総二郎さんが言っていた事を思い出す。大事な奴が居た、それは更さんの事で間違い無いだろう。私には勇気が無いから言えない事も総二郎さんなら言えるはず。その機会、背中を押してくれる人物がいる。自分の言葉は無駄かもしれないけれど、光は巾着から携帯を取り出した。

《……もしもし》

「さっきはどうも。私総二郎さんに一言いい?」

《はぁ?》

「あんたにはチャンスがあるんだ、謝るでも思いを告げるでも何でもしてみせろ!たまには男らしい所見せろよ!」

私達にチャンスは来ないままずっとあの時の恋を抱えてた。でもそれは辛いからいつか清算したくなる。総二郎さんは清算出来るチャンスが来たんだ。羨ましいけれど、それは応援してあげる。

「…私の代わりに、ちゃんと自分の言いたい事言うんだよ?」

光はそれだけ言うと西門の声を聞く前に電話を切った。行く宛ても無く光は夜道を歩いていた。そんな時光の携帯が鳴る。

《光ちゃん、ごめん》

「第一声謝るってあきらさん、私に何か悪い事したんですか?」

《…総二郎さ多分未来か過去に行くぞ。俺には意味わかんねぇけど、光ちゃんには分かるんじゃないかな?》

そう、決めたなら良いよ。光はうんと小さい声で頷いた。

「それでどうしてあきらさんが謝るんですか?」

《…あいつ、止められなかった。総二郎、決意した目だった》

「…それを聞けただけで充分です。ありがとうございました」

美作が何かを言っていた気がするが光はそのまま電話を切った。そして涙を零しながら先を歩く。先は真っ暗だった。もう夜中の一時を過ぎた。あまり人もいない。光はその中で着物という異彩を放つ。

「私は誰かを変えられるような大層な人間じゃない。自分の事だけで精一杯」



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bkm
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