165 [ 1 / 1 ]
「あ」

「優紀!?」

突然開いた襖から顔を出したのは西門とつくしと類の三人だった。そこに居るメンバーを見て驚く人がいる。

「おかえり、あの、さっきそこでおばさまに会って」

「ああ。さっきお袋から聞いた。つーか光も居たのかよ」

「居て悪かったね。おかあ様に呼ばれて花を生けただけ」

なんともめんどくさそうな顔をするものだ。西門はまぁいいやと小さく呟いた。

「紹介する。こいつ牧野。こっちが類。で、光は聞いたか」

そりゃ一緒に居たからね。婚約者と紹介しない辺りが線を引かれた気分だった。

「で、これが幼馴染のサラ」

「わ、あ、はじめまして、日向更です」

「はっ、はじめましてっ、牧野つく」

そう言った所で二人は下げた頭を互いの頭に大きくぶつけた。それに類はいつもの如く笑いを零す。

「ごっ、ごめんなさいっ」

「ううんっ!あたしこそっ大丈夫ですか!?」

「あたし石頭なんで、全然平気です」

「ガキの頃二人で塀に登って転落した時、俺だけ頭4針縫ったんだぜ。で、こいつ無傷」

西門は思い出を語る。それは珍しい事だった。

「あっ、またそうやってあたしを化け物みたいに言うッ」

「わかったわかった」

「あの時はなぜか着地成功したのっ」

隣に居るのは私のはず、そう思った自分が恥ずかしくなった。自分だけがこの人と冗談言い合ってバカな事を話せる、そう思っていたのだ。光はすっと立ち上がった。その振る舞いは相変わらず美しい。

「おい、光。どこ行くんだ?今から茶、点てるからお前も――」

「今日は用事を済ませに来ただけだから。それに私が忙しい事知ってるでしょう?」

日展か。もう間もなくだな。その言葉に光は頷いた。

「と、言う事で失礼致します。皆またね。日向さんも。それでは」

光は頭を下げた後襖を閉めた。そして向かう先は一つ。

「…おかあ様。私と総二郎さんの婚約を破棄してもらえませんか?」

「…何故かしら?理由を聞いても良い?」

「…私が言うのはおかしいかもしれません。簡単に言えば私の自己満足です。総二郎さんは今変わろうとしています。これが良いきっかけになれば良いなと私は思います」

「……返事は保留と言う事にしておくわ。そもそもこの婚約はあなた達の意思じゃないのは分かるわよね?宮永家の方にも聞かなきゃいけないわ。光さん個人の意見は受け付けられない」

その言葉に光は黙るしかなかった。これじゃあ婚約破棄を言い渡す事もできない。私の意志ってどこにあるの?いい加減誰か教えてくれないか。



prev next

bkm
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -