「突然呼び出してしまったごめんなさいね。またお花を生けてもらおうと思って」
「いいえ、大丈夫です」
光は長い廊下を歩いていた。西門家の廊下だった。ここ最近来ていなかった西門家。本人はいないのなら良い。それに私もそろそろ言おうと思っていたから都合が良いのだ。
「それに今総二郎さんの友人も来ているの。光さんも知っているかもしれないわ」
総二郎さんの友人…?光は首を傾げた。ここで道明寺やあきら、類の誰かなら面識もある。名前を出してくれても良いだろう。
「サラさんと松岡さんという方よ。もしかして光さんも友人かしら?」
松岡さん、優紀の事だろう。そして初めて聞く名前。サラ。
「松岡さんは私も友人です。失礼ですが、そのサラさんという方は?」
「サラさんは昔教室に通っていた方の娘さんで、総二郎さんと仲が良かったのよ。最近は顔を出さなくなっていたのだけれど」
「…そう、ですか」
「知り合いなら良かったわ。こちらの手違いで東の茶室にお二人を通してしまったの。でもその茶室にお花を生けてもらおうと思っていたのよ」
私の腕を気に入ってくれた事は嬉しい。が、ここで友人の話なんてするんじゃなかった。手違いか…。私が来ると聞いていた使用人が通してしまったのか。そんな事を考えても仕方ない。そして光はそっと東の茶室の襖を開いた。
「失礼致します。こちらの花、生けてもよろしいですか?」
「え、あれ?光ちゃん!」
後ろを振り返り誰もいない事を確認した光は片手を挙げた。
「どうも、優紀ちゃん。実はさ今日そこの花を生ける様に言われて来たんだけど、間違って二人をここに通しちゃったんだって」
「あ、そうなんだ…なら、帰った方が」
「あぁ、いいの。おかあ様は何も仰っていなかったから」
そして光は優紀の隣の人物を見てから頭を下げた。
「優紀ちゃん。紹介してもらっていい?」
「あ、うん。ごめんね。この人はあたしの先輩で日向更さん」
「初めまして、日向更です」
「初めまして。宮永光と申します。申し訳ありませんが、こちらで花を生けても構いませんか?」
「あ、うん!お、お気になさらずに」
可愛い人だな、という印象を受けた。動きが小動物みたいだ。見た限り清純そうで西門が相手にしている女とは正反対。分析をしてしまった事を後悔した光は準備してあった用具に手を伸ばした。花器に生ける花はこれで決まっていたのか、相変わらず私に挑戦状を叩きつけているのか、無理難題を押し付ける。それでも負けたくないからこそ光は向かっていく。
「わ、きれい」
生け終えた花を見て更は呟いた。
「これでも華道の家元の娘なので」
光が冗談交じりに言うと更はすいませんッ!と大きく頭を下げた。
「いいえ、見えないですよね。私。ね、優紀ちゃん」
「…正直言うとね?最初全然気付かなかったって言うか…」
「それは正直言いすぎ!」
「あ、ごめんっ」
光達は小さく笑った。奇妙な光景だと思った。
終