「……いい。一人一人やっつける」
同時にかかってこられようが気にしない。光は軽々と避けて着実に一人づつ倒して行く。まるでゲームの主人公のようだ。そう思っていると頬に一撃をくらい、光は瞬時にその手を払い、腹にパンチを入れる。
「っつ。いったー。女の顔殴るなんて、どんな神経してるんだ…」
口切ってしまったじゃないか。荒々しく滴る血を拭って光は微笑む。
「…次は誰?」
それに恐怖心を抱く生徒達。こいつ、普通じゃない。それもそうだ、あんた達と違って育ってきた環境が普通じゃないのだから。温室なんて綺麗な場所じゃない。そんな時大きな声が響く。
「車止めろォッ!」
道明寺の声だった。光が安堵したのも束の間。その場に居た桜子、光に以前ブスと言った女だった。その桜子がこれはつくしの裏切りだと言えば道明寺はその場を立ち去った。
「…最低な男だ」
光はぽつりと呟いた。そうこうしている間につくしは更に人に囲まれる。観衆が増えていたのだ。
「バカばっかだ、この学園内は…」
光は泣きそうになった。こんなのが将来日本を背負うの?そりゃ腐るよ。光も囲まれて行く。そこに恐怖心はない。怖いのは平気でこんな事をやって、楽しそうにそれを見ている人達。
「牧野さん!耐えろーッ!」
絶対助けるから。日が傾いてきた。私達はどれくらい闘っている?息も切れて、肩で息して、そろそろ力も無くなってきて、あちこちに傷作って、こんな所で負けなきゃいけないの?
「邪魔なんだよッ!どけよ!」
せめて牧野さんと合流出来れば…!そんな時観衆の声がぴたりと止んだ。
「…ごめん」
そして聞こえたとても小さな謝罪の声。
「俺はおまえを信じる…」
そんな声が光まで届き、やっと終わったと涙が零れた。そんな涙を拭ってから光は呆然とする群集の間を通り抜け走った。
「…何だ、ヒーローいるんじゃん」
その顔は笑み。
「いって」
あっちこっち痛くて仕方ない。それでも達成感は確かにあった。
終
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bkm