「とにかく昔の話して思い出すきっかけにすりゃあいいんだよ」
「あとは何らかのショックを与えるとかもいいよな」
「記憶失う直前と同じことするといいってゆーけど」
「ダメです。次刺したら本当に危ないです」
それに失敗したら捕まります。光は呟いてから壁に寄りかかった。
「牧野。とにかくめげずに毎日行きな。したらそのうち思い出すよ」
「…うん」
それでもつくしはどこか不安そうだ。それもそう。ようやく結ばれるはずがこうなってしまうとは。
「あいつにとって印象深い事やってみたらどーだ?」
「印象深い事って?」
ん〜西門は考えてから笑いながら言う。
「引っ叩いて赤札張り返して、宣戦布告宣言!ありゃ忘れらんねーだろ」
クツクツを笑いを零す西門。それに対してつくしは眉間に皺を寄せながら西門を睨んだ。こいつ本当にやる気あんのか…?それでも今やれる事は出来る限りして、どうしても思い出して欲しい。どうしようか…ふとつくしが視線を移すとその先で光は膝を抱えたまま眠っていた。
「あれ」
それに皆は視線を光へ動かす。
「こんな大事な時に寝るか、普通?信じらんねー!」
起こそうとした西門の手をつくしが止めた。
「何だよ」
「そう言えばちょっと前に光から聞いたんだけど、もう少しで大事な花展だかコンテストがあるから、今すごく忙しいとか言ってた。そのせいでバイトも辞めたって。だから無理させないで寝かせてあげて」
「へぇ。光ちゃん頑張ってんだ」
西門は考える。大事な花展ねぇ。確かに誰々主催と言うのは頻繁に行われているし、光の実力があれば良い所でも推薦されるだろう。だが、それは普通にこなしていた。わざわざバイトを辞めてまで挑まなくてはならない花展?
「大事なコンテスト……もしかして日展とか言ってた、まさか?」
「あ、それそれ。有名なの?」
「有名ってもんじゃねぇよ!」
西門は大声を出した。光が起きちゃうじゃん!つくしは眉間に皺を寄せた。
「華を知る人間は皆それ目指してんの!華人にとって最高の評価!それに出れるだけでもすっげぇ名誉だぞ!国宝とかが審査員すんだよ!」
「「「………え」」」
西門の言葉に皆目を点にした。え、あの光がそんなすごい所に出るの?
「光ってそんなすごいの!?」
「…ただの変わってる人間じゃなかったんだ…」
「ちゃんと令嬢やってたんだな…」
眠る光を見ればそうは見えないのだけれど…。誰もが光を見てそう思っていた。
終