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そしてICU内が騒がしくなった。中の医者や看護師達は慌てている様子が見てとれる。危険音が流れる。

「容態が悪化しました!」

それに呆然とする一同、美作がいち早く駆け出しつくしと類を呼びに行く。ガラス越しで見ている中の様子は皆慌しい。心拍数が弱まっている事が分かった。電気ショックをする必要さえあるという道明寺の様子に皆息を飲む。

「司っ!」

声を出せば聞こえるか、それはどうでもいい。ただ呼ばなきゃいけない。つくしはガンッとガラスを叩いた。

「なにやってんのよっ!天下の道明寺司なんでしょ!?いつまで寝てんのよ、さっさと目をあけなさいよっ!死んだら一生許さないんだから!」

つくしはそう言うと座り込んだ。そして、その声に反応したように道明寺の心拍数は安定して行く。光はそれを呆然と見ていた。奇跡が起こった、そう思った。つくしの声に反応したように見える。あぁ、今私は目の前で奇跡を見ている。つくしと道明寺さんは運命だ。絶対、そういう確信を得た。医者が出てきて今の状況を話す。

「本当に奇跡的です。なんとか持ち直されました」

「あーっ!ったく世話のかかる奴」

「つーかあいつ人間か!?」

困った顔をするF3の三人もやはり嬉しそうに安堵の息をもらした。

「――奥様にお知らせしないと」

「知らせる必要なんてないわ。父にも母にも。息子が生きるか死ぬかの時にここにいないなんて」

「椿様。あの方のことを全くわかっていらっしゃらないようですね、あなた様は」

そういうタマの手にはボロボロのうさぎのぬいぐるみ。

「泣いて叫ぶだけが愛情ではないんですよ」

「タマさん、その人形。確か昔司が…」

「…奥様がずっと持っておいでとはタマも知りませんでした」

それを聞いてつくしは道明寺の母親を追いかけて走り出した。そのつくしがいない中で医者が言う。

「ただ一つ問題があります。瞬間的ではありますが心臓が一時停止し、脳への酸素が止まってしまったので、後遺症がないとも言い切れません」

聞いたメンバーは再び呆然とする事になる。でも、それでも一命を取り留めたのだから。

「…シゲルさん。そろそろ帰ろう。一命は取り留めたんだから。大丈夫」

シゲルはまた涙を零す。嬉しいのか、悔しいのか、自分を責めているのか、光には分からない涙だった。

「じゃあ、シゲルさんは私が送るよ。後の事はよろしく」

光はシゲルの手を引いて歩き出した。

「…つくしと道明寺さんってすごいよね。ああいうのを運命なんだなって思った、奇跡が目の前で起こってるって」

光の言葉にシゲルは何も言わない。

「あの二人の為に自分も何か出来たらなって思う。だってそれが自分の運命に繋がるかもしれないし、奇跡を信じられるよね」



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