「うちの車で迎えに行くよ。シゲルさん所は張られて大変だろうから」
光はようやく繋がった電話をかけて西門に言う。
《おう、助かるわ》
いつの間にかこんな大事になるなんて。光は波止場に集まる記者の人数を見て驚いた。船の周りには中継のヘリまで。規模が大きいのは道明寺家だから、だろうか。そしてやっと船が到着し、案の定皆は囲まれている。
「道明寺司さんですねっ!今回誘拐されたという報道後に船遊びということが発覚しました。日本中を巻き込んだこの事について謝罪の気持ちはありますか!?」
記者の声が響く。あまりにも混雑し過ぎていて光は近づけなかった。
「あっちに光ん家の車来てっからさっさと行くぞ!」
「注目される資産家長男としての花嫁探しはどうされているのでしょう!?」
ここぞとばかりに聞いてくる記者達。あぁ、もう。これは皆の手を引くしかないか。光は帽子を深く被って人ごみをかきわけた。そしてすぐに悲鳴。
「司ぁっ!」
この声で道明寺に何かあったのかすぐに分かった。後ろの男を取り押さえろ。撮れ撮れスクープだ。光はその声を聞いて前を邪魔する人を押し分けて行く。
「どいて」
光がようやく辿りついた時、血を流す道明寺と道明寺を抱えるつくしの姿。光は思わず息を飲んだ。
「…つくし、救急車より家の車で」
ここに居る人達も英徳の人間となんら変わりないと思った。誰もつくしを助けようとしない。皆見てるだけ。自分の為。だったら私が手を伸ばすよ。
「今すぐ病院、超特急で。スピード違反しても、警官振り切っても全部私のせいだと言って下さい。あなたには被害行かないから」
光は扉を閉めた。そして先行く車を見送った。
「皆も車へ」
車内は静かだった。唯一聞こえるのはシゲルの泣き声。シゲルは自分のせいだと責めていた。光はシゲルの手を握っていた。
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