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「いてててて…」

痛い痛い。痛くはないけれど痛い。掴まれた腕は赤くなっている。それを見て大きな溜め息を吐いた。何で言っちゃったかなぁ。過去の自分を恨みたくなった。何も言わないで応援するのも恋の一つだと答えに辿りついた次の瞬間には告白だ。

「だって、むかついたんだもん」

光はポケットから携帯を取り出した。

「あ、もしもしあきらさん?おはようございます」

《光ちゃん。おはよ、どうかしたの?》

「あきらさん。重大事件ですよ。私総二郎さんに告白してしまいました」

《………はぁっ!?》

あまりの大声に光は携帯を耳から離した。

「言うつもりはなかったんですよ。でもあまりにもむかついたから困らせたかったって言うか…」

《え、あ、…うん、そうなんだ》

「ねぇ、あきらさん。私、何であの人が好きなんですかね?」

それを美作に言った所でわかるはずがない。光は自分の意思を確認するように問うたのだ。

「むしろむかつくし、嫌い。なのに一緒に居ると嬉しいし楽しい。訳分かんないですよ、もう…」

光は深い溜め息を吐いた。

《光ちゃんはさ、やっぱり黙っているのが性に合わないんだろうね》

「…私もそう思います。意外にすっきりした所もあるんですよね」

《…総二郎はなんて?》

「さぁ。言い逃げしてきました。自分でその意味考えろってね」

電話の向こうで美作は光らしいと小さく笑っていた。

「私達はピュアじゃないので、皆さんに迷惑をかける事はないと思います。あきらさんには聞いてもらっていたので、その報告でした」

それではまた学校で。光は電話を切ってそれをポケットに仕舞い歩き出す。普段は車で送ってもらう道のりを歩いていく。景色を見る余裕はなかった。もうちょっとで花展がある。色んな人の作品を見ておくのも勉強だと通学バッグから作品集を取り出した。今、この感情を持っていたら素敵な作品が出来そうな気がした。若さの危うさが見え隠れしそうなそんな作品。光は走り出した。自分は立ち止まっているよりも走っている方が似合っている、そんな気がした。

「おばあさま、私の作品、見て頂けませんか?」

若いって言うのは大変だ。将来の事、夢に、目標、学校生活に成績、バイトに対人関係、恋。私はバカだからどれか一つずつしかやれなくて、でも、ゆっくりでも着実に進んでいく。自分はそんな人間であれば良い。

「…え、私が日展へ、ですか…?」

「そうよ。これはあなたを孫だからと言っているわけではない。同じ華人として言っているの」

光は目を見開いて驚いた。日展…そして同じ華人と祖母は言う。

「…ごめんね、総二郎さん」

私の方が先に進みそうだよ。



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bkm
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