「なぁ、光」
「………」
光は喋らない。さっきまであえぎ声は出したくせに。西門は訝しげに光を見た。何か似た様な光景を…そういやこいつは無駄に律儀だった事を思い出した。
「もう喋って良いから」
「…はい」
少しふてくされたような顔をしているのはどうしてか。顔を背けたままこちらを見ようとしない光をからかいたくなる。
「なぁ、名前、呼んで」
別にそこに何の意味も無い。ただ何か喋れと言った所で光は何か、としか言わないだろう、その程度に思っていたが光は西門を見たまま目を見開いた。どうしてそこまで驚く必要がある?そして西門は気付く。最近こいつに名前呼ばれたか?
「なぁ、光。何で俺の名前呼ばねぇの」
ここ最近光が自分の名前を呼んでいるのを聞いていなかった。光はそのまま気まずそうに目を逸らして一人ベッドの下の着替えに手を伸ばした。
「おい、待てって!」
着替えて慌てて出て行こうとする光の腕を西門は掴んだ。
「…痛いんだけど」
「理由、言えよ」
「…ねぇ。名前を呼ぶ事にそんなに深い意味がある事?呼ぼうが呼ばないが私の勝手だと思わない?」
確かにその通りだ。だがどうして自分だけ?そう思うのは間違いではないはず。
「総二郎さん、これでいい?」
「…人の事おちょくってんのか、お前…」
自然と冷たくなる西門の声。光は負けじと西門を睨みつける。
「…おちょくってんのはあんたの方でしょうが」
妙な苛立ちに西門は光を壁へ押し付けた。その衝撃に光は息を飲んだ。
「……口で勝てなきゃ力任せかよ。結局あんたも子供じゃない。女に手ぇあげるなんて最低の男がする事だよ」
「…何怒ってんだ、お前」
「…私だって普通の人間よ。怒りたくもなるでしょう?」
「理由言えよ」
「いてぇから」
光は視線を移し掴まれている手首を見た。これはきっと痣になるくらいの力加減だ。西門の拘束は外れる事はない。緩んだだけだった。