「じゃあ、宮永に俺のとっておきの場所、教えてあげる」
そう言われ着いてきた先はただの非常用の階段だった。確かに誰もいなくて静かな場所だとは思うけれど、特別だとは思えなかった。類はいつも通りと言うようにその場に腰を下ろした。
「宮永も座りなよ」
「非常階段ですよね」
「煙草吸ってもバレないよ」
せっかく懐いたと思った猫はすぐに野良になってしまった気分だった。また最初からやり直しで餌付けから始めなければならない。会話が成立していないのだ。
「私、外では煙草吸わないようにしてます。バレたら厄介ですから」
「ふーん。飲酒も問題だと俺は思うけどね」
それを言ってくれるな。光はがっくり来てそのまま腰を下ろした。
「…まぁ、静かで良いですね。寝そう」
「ここでよく寝てる」
「…何で私をここに招待してくれたんですか?うるさくするかも」
「大丈夫。牧野よりは平気でしょ」
あいつさ、と類は昔、つくしと出会った時の事を話し始めた。まさか、そういう出会いだったとは思わなかった。光も類の話にクスクスと笑った。
「…また俺ん家に招待してあげるよ」
「何でです?」
「…牧野は面白い空気だとしたら、宮永は落ち着く空気。野良猫みたいで」
何でですか、それ。光は小さく笑った。
「宮永って気ぃ張ってピリピリしてると思ったらたまに擦り寄ってくる。まさに野良猫でしょ。俺猫好きだし」
「言い返すようであれですけど、私も花沢さんの事野良猫だと思ってましたから」
何それ。俺ら二人で同じ事考えてたの?二人は顔を見合わせて笑った。
終
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