《あ、もしもし?》
「…光か。何だよ」
これから外に行こうと思えば婚約者からの電話だった。面倒だと思ったが電話を肩で挟み、ボタンをかけながら話続ける。
《…今さ、お母様に呼ばれて西門家の前に居たんだけど…》
「何だよ、つーかまたか?」
飽きねぇな。どんだけ光を気に入ってんだよ。ただの暇つぶしに呼んでるだけじゃねぇの?西門は眉間に皺を寄せた。
《あ、今日は華を生けるだけで…じゃなくて、西門家の前に変な人達いる》
「はぁ?変な奴?」
《ご丁寧に黒服来て、トランシーバーで会話してる人達》
一体どういう事だ?
「つーかお前そこいちゃ危ねぇからとりあえず家来い」
《えぇ…私今日お母様に会いに来たんだけど…》
「バカか!いいから早く来いっての!何かあってからじゃおせーんだよ!」
ったく、この状況で何アホな事を言ってんだよ。強いと言っても非力な女にしては、の話だ。こっちの心配を他所に光は大声出さないでよ、うるさいなぁと電話越しに呟く。バカじゃねぇかと呆れるばかりだった。それよりも黒服着た人間ってどういう事だ?
「光!」
「あ、こんばんは」
暢気に挨拶してる場合でもねぇっての!西門は思い切り光の頬を抓った。
「いひゃい、なにするお」
その顔を見て西門は一度吹き出した。それに対してお前のせいだと光は怒った。こういうのは久しぶりだと思った。
「で、その黒服ってのは?」
「…はっきり見たわけじゃないよ。でも大の男が三人。黒服でトランシーバーでずっと喋ってた。それだけ」
西門は小さく溜め息を吐いた。それだけじゃ分からない。自分で見に行くしかないか。
「…最近寝てないって顔」
光は西門の頬に両手を伸ばした。
「心ここにあらず。何か気になって仕方ないからその代わりに毎晩遊んでる、そんな所?」
そう言われ西門は一瞬眉根を寄せた。ここにもいるって言うのか。俺の事を知ったような口で吐く人間が。
「…は、まさか」
「…そっか」
「お前は帰れ。約束断っとくから。後送らせる」
そう言う西門に光は少し寂しそうな顔を見せた。伏せられた睫毛が影になっている。
prev next
bkm