「笑っちゃうよね…あたし」
「笑わないよ、優紀ちゃんの決意だよ、誰も笑ったりなんかしない」
優紀は西門から連絡があった事を光に伝えた。そしてデートして夜に部屋にまで行ったが、震えて何も出来なかった事を優紀は笑いながら言った。光も光でどうしてこんなに相談を受けているんだろうか、断れない自分が嫌になる。昨日あきらさんにまでお人好しだと言われたと言うのに。
「…光ちゃんは知ってたんだね、西門さんの一度きりの恋愛を」
え…?そう思ったがそれだけを聞いていた光は一度だけ小さく頷いた。
「…西門さんはその女の子との約束を守れなかった事を今も後悔してる…だから、あたしは頑張るんだ」
光の目の前で優紀は光の知らない話をする。午前5時にどこかのビルに来てと言ったその女の子との約束が西門の後悔ならば、あたしはそれを見せてあげたい。そう言う優紀はとても真っ直ぐな目をしていた。光はそれを見て呆然とする。
「優紀ちゃんを変えたのはあの人なんだね」
「…うん」
「…勝てないなぁ」
光がぽつりと呟いた声に優紀はえ?と首を傾げた。そんな優紀を見ても光は何も言わない。私は負けてしまった、この勝負に。舞台に上がる前に勝てないと思った瞬間だった。少しでも武道を嗜んでいる者なら分かる。この人と戦っちゃいけないと言う勘を。光は優紀を見てそれを感じてしまった。
「…頑張ってね、優紀ちゃん」
誰もが抱える思いはいつも飛び交っている。
終
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