《もしもし、光か?ちゃんと家着いたか?》
「うん。そりゃね。子供じゃないんだから。一人で家に帰れます」
西門からの着信に光は小さく溜め息を吐いてから電話に出た。
《…あの子さ、マジ牧野のダチだわ》
「は?」
《俺が冗談で言ったさ、フルコース。デートキスベッド。全部受け入れた…》
「そう?すごいねぇ、優紀ちゃん、頑張ってる」
《何でお前はそんなに他人事なんだよッ!お前ともダチだろうが!》
あのね、友達だからこそそう言っているんじゃない。もしこれが知らない人ならへぇ、良かったね、で終わらせている所だ。光はギシッと携帯を握り締めた。そもそもそれを私に報告してくるってどういう事?私は眼中に無いって事か。それは何も言わない私が悪い事を知っている。
「…本気でかかってくるなら本気で返してあげなよ、付き合うにしても振るにしても、さ」
それがスポーツマンシップだよ。これが光に言える精一杯の事。
《…本気なんて馬鹿馬鹿しいだけだっての。それに俺は茶人。汗なんか似合わねぇの》
「総二郎さんが優紀ちゃんをどうにかしようって言うのはそりゃ総二郎さんの勝手だよ。だけど、つまんない事言って傷つけたらそれは制裁。私とつくしからのパンチは考えておいた方が良いよ」
《だよなー。だから近くにいる女ってホントに面倒なんだよ》
「…私、すごく近くない?」
《…確かに》
おいおい、それってどういう事?光は笑いそうになるのを次の西門の言葉で遮られた。
《お前は立場的には近いけど、遠いんだよ、なんか》
何それ…。一番近くにいるのは私だけだって、それは自惚れだった?少しだけ総二郎さんの事を知れていると思っていたのに。だけど、私は誰よりも遠くにいる。だからこそ、話せていた事だった?優紀ちゃんよりも、つくしよりも、英徳に通う女の子よりも遠い私って一体…?
「…あんた失礼だよね、ずっと思ってたんだけど」
《今更か?》
「…いや、最初から失礼だったよ。忘れてた」
《はいはい。あぁー…マジどうしよ。俺ってホントに罪な男》
「うん。そのまま捕まれ。じゃあ、私、眠いからそろそろ切るわ」
《捕まれっておい!…まぁ、じゃあな》
光は携帯を切ってそれを投げ捨てた。床に当たった携帯は電池パックと見事に別れた。よく耐えたよ、私。少しくらいこの汚い私を褒めてあげても良いでしょう?だってちゃんと耐えたんだもん。違う、そこで泣けば何か変わったのかもしれない。それをしないのは臆病な証。
終