「…なぁ、光」
「ん?」
「…お前からも優紀ちゃんに言ってくんない?」
「は?」
「…俺は優紀ちゃんみたいなタイプとは合わないってよ。まぁあんだけ言えば大丈夫だと思うけど釘さしとかねぇと」
この人も罪な男。汚い男。光は流れていく水をずっと見たまま口を開く。
「好きだって言われたの?」
その言葉に鏡越しの西門は頷いた。
「あのね、優紀ちゃんだって総二郎さんがどれだけ最低かは知ってると思うよ?私初対面でこいつ最低って思うくらいだから絶対知ってる。…それでも好きなんだろうね。バカだねぇ優紀ちゃんは」
私も大概バカだけれど。
「お前は相変わらず口悪いなぁ。まぁ今に始まった事じゃねぇからいいけど」
西門は後ろから光を抱きしめた。そして首筋に顔を埋める。
「…お前みてぇに割り切った行為が出来ないもんかねぇ」
「清純乙女には無理難題」
「だよなぁ。俺にはお前みてぇなのがピッタシ」
優紀ちゃんとその他大勢の女の子がいるとして私は今確実にその他大勢の内の一人になってしまった。西門は袷から手を入れ込んで光の素肌に触れる。
「…ない、お前サラシ巻くの反則だろ」
「何言ってるの。着物は寸胴体形に合わせるもんでしょうが。胸なんかぺちゃんこ」
「男を前にしてそりゃねぇよ!全然嬉しくねぇ!」
「着物着て仕事してりゃあそうなるっての!夢見てんな、ボケ!」
総二郎さんが本当の顔を隠すように、私の本当の顔も気持ちも隠す。
終
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