え?光はそのままテラスに出て梯子を上がり、屋根の上へ。類も後ろから着いてきて、その光景と空気の冷たさに息を吐いた。
「今の時期少し寒いけれど、私は空気が澄んでいて好きなんです」
ほら、星もこんなに綺麗に見えるでしょう?光は笑顔で空を見上げた。
「宮永はここで何をするの?」
「何を?景色見たり、煙草吸ったり。ぼーっとしてる事が多いです」
「へぇ、煙草吸うの?」
はい。今更隠しても仕方ないだろう。光はポケットに入っていた煙草と小さな灰皿を見せた。
「今吸ってもいいよ、別に。少し離れてくれれば」
そうですか?それじゃあ遠慮無く。光はそのまま煙草に火を点けた。そして紫煙を吐き出す。
「…宮永ってさ、小さい頃と印象変わったよね」
類の言葉を聞いて光は考えた。そういえば本当に小さい頃よく会っていたのを忘れていた。会話なんて数少ないけれど、自分のした事を考えればなかなか忘れられるものではない。
「…あれから何年経ったと思ってるんですか。10…11年ですよ。人間嫌でも変わるでしょう」
「昔はもっとバカでまっすぐで…今の牧野みたいだと思ってた」
バカって言うのは聞き捨てなら無いけれど…確かに事実かもしれない。光は私もそう思うと頷いた。
「今の宮永にはその頃のバカさはないよね。何か窮屈そう」
「知ってますよ、それくらい」
ふぅと溜め息混じりの紫煙は空に溶けて行く。
「何で煙草なんか吸ってんの?昔は健康に悪いからって嫌ってたでしょ」
よく覚えてますね…光は昔自分が言った事を思い出していた。
「…昔はスポーツマンのくせに健康に悪い煙草を吸う父が嫌だったんですけど、今じゃ思い出。父の大事な思い出なんです」
「思い出?」
「宮永家に入った時父関係の物は全部捨てられました。写真も貰った物も全部。実を言うと顔も覚えてません。だからこそ父との思い出は記憶とこれだけ。知ってますか?匂いと記憶って言うのは深い繋がりがあるそうですよ。匂いによって思い出す事、あるらしいです」
へぇ、そう。類は興味無さげに呟いた。
「今日はその父親の事思いだした?」
「え?」
「今日の宮永様子変だから。ずっと泣きそうな顔してる。何かあった?俺でよければ聞くけど」
「花沢さんって自ら首突っ込むタイプじゃないでしょう?無理しないで下さい」
類の言葉に光は小さく笑った。それで良い。気付いてもらえただけで充分。どうせ後で一人で泣くのだから。
「…よく分かったね。俺めんどくさがり」
「そんな事知ってますよ。でも、ありがとうございます。嬉しいです」
類は屋根の上に立ち上がり移動したと思えば光の横に再び腰を下ろした。煙草の臭いついちゃいますよ?そう光が言っても類は何も言わずに空を見上げてるだけ。
「…花沢さん。友達と同じ人を好きになった時どうします…?」
「……さぁ、忘れちゃったよ」
花沢さんらしいですね。光は小さく笑った後涙を零した。それから決壊してしまったように光の頬にはずっと涙が伝う。
終
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