「…私と総二郎さんは親同士が決めた婚約者同士で、それ以上でもそれ以下でもない」
「でも、仲良いから…」
「…優紀ちゃんには分からない世界かもしれないけど、私達の世界ではこういうのが当たり前なの。小さい頃からそうやって育てられてきてるから疑問にも思わないし、大抵の人は諦めてる」
そして私も卑怯。今さりげなく境界線を引いてしまった。
「…そっか。ホントはね、西門さんが私なんかを相手にしてくれるわけないって分かってるんだ」
「それでも好き、なんだね」
「うん、どうしようもなく。それが好きって事だもんね」
目の前に居る彼女は強かった。私なんかよりもとても強い。光は目を閉じた。私は関係が変わってしまう恐怖に動けないでいると言うのに、彼女はそれを知っていても動き出す。
「別に光ちゃんから奪おうとかそういうのを考えているわけじゃなくて…その…」
「うん。あのね、優紀ちゃんが総二郎さんと付き合っても私は何も言わないよ。むしろそれが原因で婚約破棄になっても、私にはまた新しい婚約者が来るだけなんだ。だからね、本気でぶつかりな」
「あ、ありがと!…光ちゃんには聞いておいて欲しくて」
「…そっか。婚約者の私には言っておきたかったんだね」
言葉にチクチクと棘が混ざっているような気がした。あえて婚約者を強調しているような物言い。
「…傷ついても…あたしは彼が好き」
そしてこの子には敵わないだろうという小さな敗北感。
「…優紀ちゃん。例え傷ついても…傷つく事をプラスに考えて。全て教訓になる、今度は大丈夫って前向きなる。次の恋愛のステップだって考えようよ。それがいつか必要な事になるんだよ」
「それ西門さんにも言われた。今回の事はあたしにとって必要な事だったんだって…」
優紀は小さく笑った。え、やめてよ、もう。光も笑みを浮かべ、最大の嘘を吐く。
「私、優紀ちゃんの事、応援してるからね!」
今ならあの時のつくしの気持ちが分かった。嘘でも応援するって言っちゃう気持ち。あの時の私は何言ってんの、って思ったけれどこれは仕方ないよね。それが大事な人だったら尚更仕方ない事だよね。
「…応援、するよ」
その日光は大事な友達の為に吐かなければならない嘘を初めて知った。それとも自分の為か、光本人には分からない。
終