「で、俺らが一肌脱がせてやろうって企画してんの!」
「それにもってこいなのが俺ん家ってわけ!」
光は目の前の光景に目を輝かせた。まさかあきらさんの家がこんなにも素敵な家だなんて。早く言って欲しかったよ!
「わ、バラ園だね。すごい、ちゃんと細部まで手入れされてて、アーチもまた素敵」
まるでヨーロッパの絵本に出てくるような風景。光はアーチに手を伸ばした。
「お、光がすげぇ女の子に見える」
「元から女だっての!」
「光ちゃん、花好きなんだ?良かったら牧野達来るまで見てってよ」
「いいの!?ありがとー!あきらさん!」
光は目を輝きを更に深めた。何でか分からないが昔から花が好きだった。自分とはまるで別で綺麗だったかもしれない。光は色とりどりの花を一つ一つ見て行く。華を生けるのも嫌いじゃないけれど、こうやって自然に近い形で土があるのがまた良い。土の感触も好き。匂いも好き。光はバラの庭園を抜けて少し歩いた先に花畑を見つけた。踏まれても逞しい花ばかり咲いている。ここは入っても良いのだろうか、光は近くに居た庭師に声をかけるとそこは子供達が駆け回るから入っても良いし、一輪なら摘んでも良いと答えを貰った。
「おーい、光―!もうそろそろ牧野達来る――…」
西門は目の前の光景を見て立ち止まった。花畑の中で目をつむる光。長い髪が弧を描いて花に紛れる。どこかの童話の姫のように思った自分が恥ずかしくなった。
「びびった…」
「あれ、総二郎さん。ごめん、今行く」
「なーに寝てんだよ!」
「気持ち良くて。すごく素敵」
ほら、花びらついてんぞ。西門はそれに手を伸ばした。長い髪についている沢山の花びらの一枚。
「……女の子には花が似合う…」
西門は確かめるように小さく呟いた。光もそれを聞いて驚いた。以前似たような事を言われた時何か引っかかったようなそんな言葉が明確になる。そうだ、光は思い出していた。小さい頃、まだ本当のお父さんと暮らしていた頃。病院の近くで会った男の子。同い年くらいの男の子だった。病院の近くの花畑。その頃の光には縁の無い場所だった。探検中に偶然にも迷い込んで、あまりにも気持ちの良い場所だったから光は眠っていた。そしてその光景を見た男の子に起こされたんだ。
≪びっくりした。死んでんのかと思った≫
≪…寝てただけ≫
その男の子は小さく溜め息を吐いて、光の短い髪についた花びらを手に取った。
≪だけど、女の子には花が似合うね≫
今思えばその言葉がきっかけで光は花が好きになったのかもしれない。
「おーい!総二郎ー!光ちゃーん!そろそろ来いよー!」
「あ、悪い、今行く。ほら、光も行くぞ」
光はその手を掴むのを躊躇った。が、西門はその手を掴み、光を強引に立たせた。
「もうちょっと優しいレディファーストは出来ないのかしら…」
「お前に使うくらいなら、他の子に使ってます、俺は」
「だよねー」
「聞くな、そんな事」
「…天使が居る!可愛い天使達だ!花が似合う妖精さんでも良い!」
「光。とりあえずお前落ち着け」
終
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