光の朝は早い。だらけた生活を送っている西門達よりもよっぽど健康的だと自負している。そしてこんな朝を迎えるのは何度目だろうか。お互い裸でベッドの上。周りには散らばった服。普段ならここで西門が起きる前に着替えを済ませて寝起きの一服でもしているだろう。だけれど、今日の光はそんな気分にはなれなかった。だるさより、一服よりも西門の近くに居たい、そう思っていた。彼の事を思い出したからか、それとも昨日最中に彼の名前を呼んでしまったからだろうか。忘れようとしているだけで全然吹っ切れていないのが自分の本心なのか。そういう心を振り払うように未だ寝息を立てる西門の整った顔に手を伸ばした。
「……綺麗な顔」
長い睫毛。さらりと垂れる黒髪も純正の黒。家の為に染められないのは彼も一緒なのだろう。私の生活は、私はこの人と出会って変わったような気がする。考え方も、友達も、私はこの人が好き?自分に問いかけてみるも返事なんか無い。違う、この人を好きになれば幸せになれるかもしれない、そんな淡い希望だ。総二郎さんの事、嫌いじゃない。いつも私を助けてくれる。一緒に居て気が楽で言いたい事も言える。黙っている時の空気も嫌いじゃない。それが世間一般的に好きだと言うのなら私は総二郎さんが好き。でも、好きだと思えば尚更近づけない。裏切る事になる。
「……ごめんなさい」
少し感傷的になった。目を覚まさない西門の唇にそっと自分の唇をそっと合わせて光は着替えようと、服を取ろうとベッドから出た時、光は腕を引っ張られすぐにベッドへ逆戻り。
「わ、起きてたの?びっくりした…」
引っ張られて気が付けば目の前には西門の顔。奥には高い天井が写っている。
「……なぁ、光」
寝起きの少しかすれた声で彼は私の名前を呼ぶ。
「……何で、お前泣いてんの?」
そう言われて光はようやく自分が泣いている事に気が付いた。慌てて拭うよりも先に西門の指が光の頬を滑る。
「……ごめんって何。何でお前、俺に謝る必要あんの?」
ここはベッドの上。両頬の隣には西門の手。逃げる場所なんか無かった。
「…昨日、別の男の名前を呼んで?」
「馬鹿。違うだろうが」
あぁ、逃げられない。光はそう思った。だったら、一つだけ解きほぐそう。
「……ねぇ、総二郎さんは忘れられない恋をした事ある?私はあるって話をしたよね。…私が好きになった人は一般家庭の人だった。初恋の人と再会して、また恋に落ちた。でもね、私はおばあ様に言われた。あなたにはふさわしい家の人がいるのだから辞めなさいって。まるで今の道明寺さんでしょう?…でもね、私はおばあさまの言葉に歯向かう事もせずにそれを受け入れた」
だからね、ごめんなさい。西門は意味が分からなく、光の言葉をただ聞いていた。