「あたし、もしかしてとんでもないこと言った?」
それに対してF3の三人は言ったと声を揃えた。
「言っちゃったもんはしょうがねえじゃん。なに弱気入ってんだよ。あんたは別でも司が牧野を好きな以上必ずぶつかる問題なんだよ。ドーンとぶつかってやんなよ。俺達も協力すっから」
「うん…」
つくしは自信なさげに頷いた。
「そーだな。頑張れよ、応援するぜ」
こんな殺風景な部屋に居たら気が滅入るから家具でもプレゼントしてるよ、そんな声を光はモンブランを食べながら聞いていた。
「今日の牧野すごかったなぁー」
光は西門の言葉に小さく頷いた。今はつくしの家からの帰り道だった。車内で西門は啖呵を切ったつくしを思い出す。
「あの時の顔!すごかったぜ!」
うんうん、再び光は頷くだけ。
「…何でお前喋んねぇーの?」
お前が黙ってろって言ったんだろ。そういうように光は西門を指差した。
「お前っ!律儀過ぎだっての!あははっ、もういいから喋れ!」
「喋るなって言ったの総二郎さんじゃない」
それで爆笑されるって一体どうなの…。
「…ねぇ、つくし大丈夫かなぁ」
「…さあな。あのかーちゃんに啖呵切ったんだ。ただじゃ済まねぇだろうな」
だよね…。光は呟いてから思い出す。過去の事を。一般家庭の人間と良家の人間との差。そこに大きな差ってあるんだろうか。あるのは大きな壁だけのように見える。それを乗り越える、つくしならきっと壊してしまうだろう。なんたって周りのF3の作る壁すらつくしは無くしてしまったのだから。もう過去の事は忘れよう。つくしと彼を重ねる必要なんてない。私はあの言葉を嘘だと信じたはず。もう掘り起こしたくない。忘れていたい。
「ねぇ、総二郎さん。今日総二郎さんの家行きたいなぁ」
「は?別に構わねぇけど、まず牧野ん家に送る家具選びな」
「ちゃんと大きさ考えるんだよ」
誰かに抱かれて彼を忘れようとしている。今の私にはピッタリの言葉だ。
「…ん、――…」
「……お前さぁ、俺に抱かれてる時他の男の名前呼ぶなよ。萎える」
「…ごめん、私、そんな事した?」
まとわりつく過去は私の歩く速度を遅くする。
終
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