その時呼び出しベルが鳴った。つくしが扉を開けるとそこには驚くべき人物が立っていた。それを見て光は思わず西門の背の陰に隠れた。
「あなたとはもう二度とお会いする事はないと思ってましたけど、是非お聞きしたいことがありますの」
室内には入らずに手短に済ませるつもりの道明寺の母、楓。誰もそれ以上動けなかった。
「一体どういう手をお使いになったの?大河原家と司が同時に婚約解消を申し出てきました」
「婚約…解消…?」
それはつくし以外誰も知らない話。つくしはただシゲルに聞いただけ。
「一体あなたはどこまで道明寺家の邪魔をすれば気がおすみになるの」
「あたし、邪魔なんてしてません」
「そうおっしゃると思ってました。あなたの様なお育ちのよろしい方は一般の人間が考えもつかないような汚いやり方なさるんでしょうね」
バカにした言い方だった。差別。楓は同じ人だという事を認めていない。
「ちょっとそりゃないんじゃないですか!?誤解ですよっ」
西門の言葉に楓はまた嘲笑を浮かべる。
「両親、漁村へ出稼ぎですってね。まったく…見栄をはらずに5千万受け取れば良かったのに。この汚らしい部屋に男性を連れ込むのはお手のものですか」
この言葉によって光の怒りが切れるよりも先につくしの怒り爆発してしまった。
「…黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって、このババア」
それを聞いて呆然とするのはF3。光は笑いがこみ上げるのを必死で抑えた。
「バ…ババア…?」
「クソババアッあんたのことだよ!そんなに息子が大事なら首にナワつけて柱にくくっときなっ!」
「あなた御自分が何様のつもりで、そんな口を…」
初めて言われた言葉に楓は眉根を寄せた。
「あたしは何様でもないですよ。あんたにとってはただの雑草かもしれない。だけど、人に馬鹿にされるような生き方はしてない。あたしはあなたを心底馬鹿にしてます。自分以外の人を自分の息子をそんなふうにしか見れない最低の人間だと思ってます。出ていって下さい。あたしの世界にはあなたなんか入れない」
つくしはそう言うと楓を押し返して扉を閉めた。後ろでは絶賛の嵐だ。
「すっげえ〜!すげえ!おまえめちゃかっこいーじゃん!」
「雑草パワー炸裂っ!」
「かーちゃんのあの顔見たか!?あんなの初めて見たぜっ!あの鉄の女が!」
「俺ちょっとカンドーした」
「だよなっ」
「おい、光!お前も後ろにへばりついてないでなんとか言えって!」
だって、だって、と言いながら光は吹き出した。つくしの言葉は面白くて仕方ない。周りにそう言う人物がいないから尚更だ。
「あの人の顔見た!?あれ、ババアって息子以外に初めて言われた言葉だよっ!」
その時の顔と言ったら…!つくしすごっ…光はお腹を抱えて笑った。
「だ…だって、くやしくてキレちゃった」
「しかし知らなかったぜ。マジで司と滋別れてたんか」
「やっぱな続かねえとは思ってたんだよ」
いいコンビだ、とか言ってたのは誰だっけ。
「牧野、おまえはどーすんの?司のおふくろこのまま黙っちゃいねーよ」
「そうだな、対策考えねえと」
「ここまで来たら勝負だね」
「もう逃げらんねーよ」
そう言う人達の顔に不安な様子は一切無い。
「逃げないよ。あたしあのおばさんと闘ってやる」
終