「よぉー光。暇そうだなぁ」
「暇じゃないわ。どっからどう見ても移動中だろうが」
私服で堂々歩けるあんたには分からないだろうよ。こっちには授業があって、移動教室というものがあるんだからな。光は眉間に皺を寄せた。
「そーいや、お前学生華道――主催の大会で最優秀賞取ったんだって?」
掲示板で見た。校舎前にあるあれの事か。校内新聞だ。誰が書いているかは当然知らないがとにかくあれには良い思い出なんかなかった。
「何で言わねーんだよ。そもそもいつ参加してたんだ?」
「むしろ何で言わなきゃいけないんだよ…。いつって…確かつくしが入院する前。学校休んでたんだけど、気付かなかった?」
「全く」
「私に興味無さ過ぎだよ」
何日もいなかったら気付こうか、流石にさ。まぁ、気付かなくても別に良いけれども。
「そういや、何で俺らって正式に婚約発表してねーんだ?」
知らなかった?そもそも疑問にすら思わなかったのだろうか。本当に自分の事に関してはどうでも良いタイプらしい。他人事には首突っ込んでいくくせに。
「…流石に高校生ってのが体裁悪いからじゃない?道明寺さん達も婚約発表はしないけど、婚約してる身でしょう?」
「あぁ、確かにそうだったな」
「だけど、婚約するのはお互いツバつけとけって感じかなぁ。最近おかあ様はどう?」
「全く怪しんでねーよ。まぁお前が頻繁に家来てっからな」
「そう。なら良かった」
「つー事で!今日はお前の祝賀会な!」
何がつー事で!だよ!光は思わず声をあげた。ただでさえ学園内でこの人と喋ったら痛い視線が来るって言うのに。今のでかい声のせいで明日の私の上履き死んだよ、多分。
「えぇー…この度はー…私めのお祝いの為にわざわざご足労頂いてー真に申し訳――」
「何だ、そのだらしねぇ挨拶は!光は座れ!とりあえずかんぱーい!」
とりあえずっておかしいだろ!そう思ったが光は椅子に座りかんぱーいとグラスを合わせた。中心には4つのグラスが集まる。
「花沢さんまですいません。総二郎さんとあきらさんは喜んでくるだろうと思ってたんですけど、まさか花沢さんまでいらしてくれるとは」
「いや、俺寒いの結構好きだから」
「分かります。空気が冷たくて新鮮な気がしますよね」
酔いを覚ますのにももってこいの季節が近付いてきたなぁ、と光はしみじみしながらお祝いのシャンパンを口にした。
「そこの老夫婦!お前等渋過ぎ!」
老夫婦って一体どういう事だよ。だが、老夫婦のイメージを必死に探すとそこは天気の良い日、縁側でお茶をする仲の良さそうな夫婦の顔が浮かんだ。すごい幸せそうに思えた。
「老夫婦って…でも私縁側嫌いじゃない。日向ぼっこするのにいいよ」
「あ、俺も。そこで昼寝とかいいな」
「私は読書派です」
「老夫婦は放っておいて、司、今頃何してんのかなぁ」
「さぁな。滋とデートでもしてんだろ!」
私達がお酒を飲んでいる時、つくしとシゲルに何かがあった等露程も知らない。
終
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