「やっぱり見つかんねー!お前隠れてんだろ!」
「あなたは目立つから、姿見えるよりも先に歓声聞こえるから気付いちゃうんですよね」
光は小さく笑った。飽きもしないで校舎を歩き回っているのは噂で聞こえてくる。近くにいれば黄色い声。それが聞こえれば席を立ってみたりすればかわす事は簡単だった。
「かぁー!悔しいから絶対見つけてやる」
「案外子供みたいなんですね」
子供と言われて西門は眉間に皺を寄せた。
「一つの恋もした事ない生粋のお嬢様には言われたくない台詞だな」
「私は生涯一度の恋をしたから、もういらない」
そう言った光の目は本気だった。同じだった。一つだけの恋愛。後は流されるように、言われるがままに。諦めてる。違う所は遊ぶか遊ばないかの違い。あーあー、やだやだ。色んな事を思い出してしまう。西門は話を逸らすようにニッと歯を見せて笑った。
「そういやサマースクール、行くだろ?」
「行かないです。最初に言ったじゃないですか。私忙しいって。遊んでる暇があるのなら私は華を生けます」
「お前息抜きでもしたら?疲れね?今何やってんの?」
「華道茶道は毎日。教室の補助。礼儀作法、舞踊、習字、英語、フランス語、琴、バイオリンに…」
次々と指を折っていく光。他にもまだまだありそうだ。西門はその量に溜め息を吐いた。遊ぶ時間なんて全く無いだろう。俺には信じられない生活周期。
「ありえねー」
「でも、復習しているだけのもあるから苦じゃないし、自分の時間もちゃんとある」
だから平気。こいつとは性質が違うと思った。昔からあれしろ、こうしろと言われるのが嫌で嫌で仕方なかった。すぐに飽きてしまう。女にも。西門はぼんやりと目の前の光の話を聞き流す。眩しいとさえ思った。その眩しさを振り払う自分の言葉。
「尚更ハワイ行くべきだな」
「興味がない」
ざっくり、潔い。そういう言葉がピッタリだと思った。よく言えば自分の意思をしっかりと持っている人間。それはここ数日で思った事だった。優柔不断かと思えばそれは一切見えない。自分の意思をしっかり持っていた。
「私にはやるべき事がある。まぁ、私を見つけられたら考えてあげても良いけどね」
光は自信満々にそう言いきってから席を立った。この後予定があるからと小さく手を振っていく。西門はそれを見て頬杖ついて溜め息を吐いた。
「つれねぇ女」
ぼそりと呟いた。光の自信の通り西門は光を見つける事が出来なかった。当然ハワイに一緒に行く事はない。しかも道明寺の自分勝手な行動でハワイではなく熱海へ。例え一人の女にふられようが、一緒に居る女には困っていない為、すぐ忘れる事になる。
終