prologue




 目を開けると何も見えない、真っ暗闇の中だった。一瞬、自分が何をしていたのかわからなくなったけれど、次第に夢を見ていたのだと気づく。夢とは思えない、そして今、実際に体験したような感覚と情報で頭の中がいっぱいになっている。胸のあたりに手を当てると、心臓がばくばくと忙しく動いているのがわかった。それを落ち着けるため、ゆっくり、ゆっくりと深呼吸をする。息を吸って、吐いて。深く、深く。肺の奥が膨らんで、縮むのをきちんと感じて。すると、鼓動はだんだんと安定して正常な動きを取り戻した。暗闇に慣れてきた目が、見慣れた天井をぼんやりと映しだす。同室のみんなの鼾が聞こえる、いつもの夜だ。僕はひとり、さっき見た夢の記憶を、頭の中でゆっくりとなぞる。
 ゆっくりと体を起こし、カーテンで閉ざされている窓に目を向ける。まだ朝の光は射しておらず、暗いままだ。正確な時間はわからないけれど、今日はもう眠れなそうな気がした。それに何だか喉も乾いている。少しだけ迷って、僕はベッドから起き上がる。ぐっすり眠るルームメイトを起こさないよう、細心の注意を払って部屋を抜け出した。

 誰もいない、静まり返った廊下を歩きながら、夢で見た、昔の話を思い出すことにする。

 シガンシナ区で育った僕の親友は、エレンとミカサのふたりだった。僕は小柄で運動神経もよくない、いい鴨だったのでしょっちゅういじめられた。自分でも自覚しているけれど体も心も本当に弱い人間だと思う。そんな僕をいつも助けてくれたのはエレンとミカサだった。ふたりは僕の救いで、眩しくて、時に自分の無力さを思い知って苦い気持ちになる両価的な存在だった。
 僕は壁の向こう側にある世界が描かれた本がとても好きで、祖父の書斎から借りてはエレンとミカサと一緒に飽きることなく眺めていた。それを読んでいると、僕らが住んでいる壁の中の世界がどれだけ狭くて、そこに住んでいる僕らがどれだけちっぽけな存在か思い知らされた。いつか外の世界に行こう。エレンと今は反対しているけどミカサも一緒に。そんな希望に満ちた夢を、幼いころの僕は見ていた。

 僕の友達はエレンとミカサだけだったが、ほんの少しの間だけ仲良くなった女の子がいた。今日の夢は、彼女と過ごした短い日々の話だ。



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