epilogue




 巨人がウォール・マリアの壁を越えてやってきたのは、それからすぐだった。
 街はめちゃくちゃになり、着の身着のまま逃げ出してきたけれど、彼女からの手紙はエレンとミカサに見せようとズボンのポケットに入れていたので、今でも持っている。しまっておく場所もなかったので肌身離さず持っていることが多く、手紙はかなりぼろぼろになっていた。けれど、インクで書かれた文字は今でも読み取ることができる。習いたてと思われるナマエの字は、少しいびつでたまにスペルが間違っていたけれど、一文字一文字ていねいに書かれていた。
 ナマエの手紙を読んで、彼女を守ってくれる人がいることに安心すると同時に、僕と同じ気持ちを抱えていたのだろうと思った。手紙には、何度も謝罪の言葉が書かれていた。けれど、ナマエが謝ることなんて何ひとつないと僕は思った。僕は彼女の居場所もわからず、手紙を出すこともできなかったけれど、それだけは伝えたかった。
 訓練兵になって初めての給金で、僕は鍵のある木箱を買った。そこに彼女からの手紙を入れて、机の奥にしまっている。
 

 井戸で少しだけ水を飲み、ぼんやりとしているとだんだんと空が白んで明るくなってきた。朝が来る。望んでも望まなくても、生きていれば平等に朝はやってくる。
 選択肢はいくらか決まっていても、その中から自分が望むものを選べる僕は、きっと幸せだ。ナマエはどうなのだろうか。自由という言葉をよく紡いでいた彼女に、自ら選べる選択肢は存在しているのだろうか。
 あの手紙には、ナマエが僕に会いにいくと書いてあった。けれど、僕からナマエに会いにいきたいと思う。そのために、今日も僕は彼女との思い出を胸の底に押し込めて、鍵を閉めて生きていく。

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