※大学生です。





 雨の日は外に出るのがおっくうになる。空気がじっとりと重くて、肌にまとわりつく。雨で髪はぺったんこになるし、服もしっとり濡れてしまう。足元なんか、気をつけなければ靴のなかまでぐしょぐしょになってしまう。わたしと凛ちゃんは、その意見で一致している。凛ちゃんはわたしより雨の日が嫌いだ。けれど、プールは好きなのに雨が嫌いな理由がわたしにはよくわからない。「同じ水でしょ」と言ったら「大ざっぱにくくりすぎなんだよ」と小突かれた。


 窓の外に見える空はどんよりと重く、雨がしとしとと降っていて、昨日からずっとやまない。天気予報のお姉さんも「この雨は1日中降り続くでしょう」と申し訳なさそうに言っていたから、もう外出は諦めるしかない。今日が晴れだったら、本当は街に出て行きたいお店があったのだけれど。そのときに履いていこうと思って、前々から欲しかったパンプスも購入した。せっかくだし晴れの日のお出かけでデビューさせてあげたいから、しばらくは箱のなかでおやすみしててもらおう。
 わたしがうらめしくテレビの天気予報を見ていると、凛ちゃんは「そんなに行きたいなら付き合ってやるよ」と言ったけれど、ふるふると首を横にふった。雨の日のおでかけが楽しくないのなんて、目に見えている。もしかしたら、些細なことで凛ちゃんとケンカになるかもしれないし。そんなことを考えていると、凛ちゃんの大きな手がわたしの頭に乗っかってきて、ぽんぽんと子どもをあやすように撫でてくれた。凛ちゃんは、ぶっきらぼうだけど、こういうときとても優しい。「しょうがないから、今日は溜まってるレポートをやろうか」と言うと、凛ちゃんはすごく嫌そうな顔をした。


 雨の日のよいところは、ぼおっとしている凛ちゃんのそばにじっとくっついていられることだ。たいして面白くないテレビを見ながら、たまにぽつりぽつりと会話をする。それっぽい雰囲気になったら手をつないだり、あれやらこれやらする。そんなふうにぼんやりと1日を過ごして、気づいたら夜になっている。今日みたく「レポートやろうか」なんて言ってもやれないことの方が多い。まあ、それも悪くない時間の過ごしかたではないかとわたしは思う。


 でも、今日はそろそろ溜まっているレポートを出さないと大変なことになりそうだ。凛ちゃんは、要領がいいからぱぱっとできてしまうのだけど、わたしは要領が悪いので、のろのろと時間をかけないとできない。今日もそれは同じで、凛ちゃんのレポートにある程度の目途があった時点で、わたしのレポートは半分も終わっていなかった。もしかしたら今日のお天気は、遊びにうつつを抜かしていたわたしへのペナルティなのかもしれない。


 すでにレポートを終えた凛ちゃんは、「まだ終わんねーの」とわたしにちょっかいを出してくる。普段だったらちょっと嬉しいのだけど、さすがに今日は喜んでる場合でもそれに付き合ってる場合でもない。わたしは「終わらないよ」とか「まだだよ」と適当にあしらいながらレポートの中身を考えてパソコンに文字を打ち続ける。けれど、凛ちゃんのちょっかいはだんだんエスカレートしてきて、耳を甘噛みしてきたり首筋にくちびるを寄せてきたりする。最初は静かに抵抗していたのだけど、すればするほど凛ちゃんはおもしろがってちょっかいをかけ続ける。わたしが本当は嫌じゃないということを知っているところが策士なのだ。


「凛ちゃん」
「何だよ」
「レポート書かせてよ」


 わたしがそう言うと、凛ちゃんはにやっとして耳に息を吹きかけてくる。形容しがたい変な声が出てしまって、自分の顔が熱を持っていくのがわかった。目の前で凛ちゃんはにやにやしている。 
 もう、レポートなんてやってられない。勢いよく凛ちゃんに抱き付くと、長くてたくましい腕で抱きかかえてくれた。


「レポートは?」
「……もう無理。凛ちゃん、責任とってよね。」


 凛ちゃんに絡みつけた腕に力を込める。お腹のあたりにに鼻をこすり付けると、凛ちゃんの香りがした。背中に触れる大きな手のひらから、わたしはとけていってしまいそうだ。
 君がどんな顔をしているのか、見えてないけどわたしにはわかるんだから。


加筆修正:140428


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