05 常連客
〜美羽side〜
恭一さんと会えない日が続き
ジワジワと汗ばむほど暑かった日々は、夜には肌寒く感じるほど季節はゆっくりと移り変わっていた
私は、今日もアモーレで仕事
────チリンチリ〜ン♪
ドアベルの音を聞いて、急いでエントランスへと向かう
「いらっしゃいませ。お1人様でいらっ……あっ、こんにちは。今日はお仕事の帰りですか?」
「あぁ、仕事終わりには、ここの旨い珈琲が飲みたくなるからね」
そう言うと
“彼”は微かに口角を上げ笑った
「ふふっ…いつも有り難う御座います。あ、どうぞ。お席にご案内致します」
――――このお客様…
“高山奈生さん”は
ここ2ヶ月程前から、よくうちに来てくれるようになった言わば“常連さん”
偶然入ったというこのお店の珈琲を、もの凄く気に入ってくれて
それ以来、仕事帰りなんかによく立ち寄ってくれる
「いつもので宜しいですか?」
鞄をドサッと置き、スーツのネクタイを緩めながら椅子に腰掛ける高山さんに尋ねた
「あぁ、いつもので頼むよ」
「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい。」
ペコッっと頭をひとつ下げ、ホールカウンターへと戻る
「誠君、5番にブルマン1つ、お願い」
「りょ〜かい!アイアイサー!!」
プッ…
誠君はいつも元気いっぱいで、アモーレの盛り上げ隊長
最近覚えたディシャップが楽しいらしく、いつも以上にテンションが高い
そんな誠君の姿に思わず笑みが溢れる
「美羽ちゃん、はい!お待ちど〜!!ブルマン頼む」
「あっ、うん」
「あれ?あの人、今日も来てるんだ!?ホント、カッコいいよな〜、あの人。男の俺から見ても、そう見えんだから、女の子にモテんだろ〜な〜」
カウンターから身を乗り出してフロアを覗きながら、羨ましそうな声で誠君は言った
確かに“彼”はカッコいいと思う
スラッと伸びた背
長い手足
肌は程良く日焼けをしていて、身体の線もがっしりとしている
キリッとした瞳にスーツ姿が良く似合う
まるで、俳優の相馬竜司のような…
芸能人でも何らおかしくないほど、人を惹き付ける魅力が彼にはあった
現に、彼が店に来ると
他のお客様の視線は一気に彼へと集中する
私も少しだけしか会話をした事はないけれど、とっても紳士的で、明るくて、優しい人…
正に“完璧”という言葉がピッタリ当てはまる人だと思う
あっ、いけない。珈琲…
我に返った私は、慌てて珈琲をトレイに乗せ高山さんの席へ向かった
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