54 最終話
朝、目が覚めると
目の前には、スヤスヤと寝息を立てる恭一さんの寝顔があった
付き合い出してから、こうしてここで朝を迎えたのは初めて
いつもは、必ず家まで送ってくれていたから…
寝顔は少し幼くなるんだよね……フフフ、可愛い…
付き合う前に一度だけ見た事のある顔
でも、あの時とは違う関係だからか、何だか特別なモノを見たような…とってもくすぐったい気分だった
その穏やかな寝顔をした恭一さんに触れたくて
起こさないようそっと、色素の薄い栗色の髪に手を伸ばす
その時、ふと左薬指に結ばれた赤いリボンが目に付いた
リボンには鍵が通してあり、ぶら下がっている
――――これって……
「きょっ、恭一さん!!」
布団から飛び起きた私は、寝ている彼を揺すり起こし
「んん………美羽さん…おはようございます……」
逸る気持ちを抑えきれずに、まだ寝ぼけ眼の恭一さんの目の前に左手を差し出た
「こっ、これ!!」
「………ん、あぁ、それはこの部屋の鍵です」
「それって……」
もう既に涙目になっている私に、身体を起こした恭一さんは言葉を続ける
「私と一緒に暮らしませんか…?」
「きょ…いちさ……」
「でも、この狭い部屋では美羽さんの荷物が入らないでしょうから、新しい部屋を探す事になりますが……取り敢えず、それは仮という事で…」
「うっ……グスッ……ふぇ…」
「また嬉し涙ですか?」
言葉にならずコクコクと縦に頷く
そんな私を、小さな子供でも宥めるように恭一さんは優しく頭を撫でてくれる
「ご両親にもご挨拶に伺わなければなりませんね」
「グスッ……はい…」
思いがけず手にした幸福の鍵には、恭一さんの想いが沢山詰まっていて
その気持ちを少しも溢さないよう、きつく握り締めた
「ところで、美羽さん…」
「はい?」
改まった恭一さんは、何故かほんのり顔を紅く染め、咳払いをする
「その……朝からその格好は、刺激が強いのですが…」
!!
私、裸のまんまだ!
言われるまで気付かないなんて…何てマヌケなんだろう
途端に恥ずかしさが込み上げて、慌ててシーツを被り丸くなるが
「そんな事したってもう遅いですよ…」
シーツはあっという間に剥がされてしまう
「ぁ……恭一さ…」
これからは、毎日こうして幸せな朝が迎えられるんだ…
その大きな喜びは、私をいつも以上に幸福な地へと誘(いざな)った
*
「あぁ〜、もうどうして、美羽はそんなに可愛いらしいんだい?」
「ちょ、ミケーレさん!抱き着かないで下さい!仕事中です!!」
あれから、1ヶ月
ミケーレさんは何事も無かったかのように、今まで通り接してくれている
スキンシップは相変わらずだけど…
ただ、変わった事と言えば…
「ミケーレさん、きちんと仕事をして下さい。それから、美羽さんに触れないで頂きたい」
恭一さんは、私からミケーレさんを引き剥がす
「ははっ、恭一もすっかり言うようになったねぇ。じゃぁ、恭一の怒りに触れない内に僕は退散するとしようか。またね、美羽」
含み笑いを見せると、両手をヒラヒラさせながらキッチンに消えて行き
残された恭一さんは、眉間に皺を寄せ不機嫌な顔をしている
「美羽さん、あなたももう少し気を付けなさい。だいたい、あなたは……」
「ふふふ///」
「何が可笑しいのですか?」
だって……どうしたって口元は緩んでしまう
「恭一さんて、案外ヤキモチ妬きだったんだな〜って」
「なっ///」
「でも、そんな恭一さんも好きですよ?」
顔を赤くした恭一さんの耳元でこっそり囁いたら、耳まで真っ赤になっていた
毎日、色んな恭一さんを発見する
そんな彼を明日はもっと好きになる
明後日はもっと、もっと……
この想い
迷わず伝えていこう
それは、きっと
私たちの幸せに繋がるはずだから…
私たちは、まだ
やっと始まったばかり
-fin-
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