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〜美羽side〜







気が付いたら走り出していた






脳裏に焼き付いている光景を振り払うかのように




ただ、ひたすら夢中で走り続け







闇雲に走り、辿り着いた先はアモーレのすぐ近くにある小さな公園だった









「―――ハァ…ハァ……ッ、ハァ…ハァ…」







全身が心臓になったかのように心音は激しく早鐘を打ち



呼吸も儘ならない程荒くなった息を整えながら、側にあったベンチに倒れ込むようにして腰を下ろす






大きく深呼吸をしながら見上げた空には、星の輝きひとつない…今にも吸い込まれそうな深い闇が広がっていた










まるで、ほんの少し前までの私みたい







出口の見えない真っ暗な闇をさ迷っていた私










けれど、やっと光の差す出口を見付ける事が出来た










私は気付いてしまった







自分の気持ちに…













こんな事になって、やっと気付くなんて……




なんて馬鹿なんだろう







けれど、不思議と涙は出なかった





むしろ、何だか清々しくもある







やっと見つけた自分の想い










まだ、間に合うかなぁ…














ベンチの背もたれに頭を乗せ、反り返るようにして空を見上げる






ぼんやりと眺めながら、その想いを噛み締めていると








「生憎今日は、星たちは見えないようだけど?」






突然、私の目の前にスッと影が落ちた








「うわっ!!」




丁度、ベンチの真上にある外灯が影を作り、ヌッと現れた物体に驚いてベンチからずり落ちてしまう






「おっ…と、大丈夫かい?」





優しい声と共に私の腕を掴んだその人は…






「ミ、ミケーレさん!?」







店からの帰りであろう彼だった






「驚かせてしまったようだね」





「いえ…今、帰りですか?」





「あぁ。琢磨に新作メニューの相談を受けてね。仕事熱心で参ったよ」





「ふふっ、本当はそんな事全然思ってないくせに…」





「はっはっはっ。じゃぁ、そういう事にしといてもらおうかな……―――僕も…隣に座っていいかい?」






「あ、はい。どうぞ」






ミケーレさんは私の横に腰を下ろし、さっきの私と同じように空を見上げる








「う〜ん…ロマンチックではないねぇ」




「あはは、そうですね…」








言葉を交わしたのはそれだけで




お互い…黙って、ただ同じ闇を眺める






外灯だけがスポットライトのように恍々と灯り、私達を照らした






ミケーレさんと一緒にいて、こんなに長い間言葉が存在しなかったのは初めてかもしれない

















「美羽はどうしてここに…?」




それまで黙っていたミケーレさんが、視線は空に向けたまま…ふと口を開いた






「何かあったのかい?」





最もな質問だった



早く店を出たくせにこんなところにいたんじゃ、不思議に思われるに決まってる






「だが………暗い顔ではないみたいだ。それに、何か言いたそうにも見える」






相変わらず的を得た鋭さに、私は思わず両手で頬を押さえた








「美羽の事なら何でもお見通しさ。どれだけ僕が君を見ていると思ってるんだい?」






ミケーレさんの言葉に胸が苦しくなる





けど…ちゃんと伝えなくちゃ―――……







自分の想いを…










「ミケーレさ…………私……」






「うん?」









「私………やっぱり恭一さんが好きです」






「うん…」








「ごめんなさい……でも、私…ミケーレさんがいたから……ッ…」




目頭が熱くなって言葉に詰まる




私が泣いてどうするんだ





唇をキュッと固く噛み締めて堪える








「もう、いいよ……ありがとう。悩ませてしまってすまなかったね」





目を細めて微笑みながら髪を鋤くように撫でるミケーレさんに、私は大きく首を横に振る







「僕は…君が幸せでいてくれさえすれば、それでいいんだよ。気に病む事はない」









どうしてこの人は、こうなんだろう






いつでも私の幸せを願ってくれる







そんな人の想いに答えられなかった自分への苛立ち、罪悪感……改めて感じたミケーレさんの想いの深さ…感謝の気持ち






色んな想いがグチャグチャに入り交じって






それは涙となって頬を濡らした








「ほら、泣いてる暇なんかないはずだよ?君には、まだ伝えるべき人がいるだろう?」







「―――っ…グスッ……はい…」





「さぁ、行っておいで…僕が出来るのはここまでだ」






涙を指で拭い取ると、背中をポンッと押してくれた










こんな言葉じゃ、何度言ったって全部伝えられないけど




私の想いの精一杯







「ミケーレさん………有り難う……グスッ…ございます………ミケーレさんがいてくれて…ッ、本当に…よか…良かった」









どうか…伝わりますように……








背中にもらった勇気








一生忘れない














bkm



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