03
今にも泣き出しそうに顔を歪ませ、瞳を潤ませた彼女
―――――どうして、そんな顔を…?
堪らず彼女を抱き締めてしまっていた
こんな表情をさせているのは、きっと自分なのに…
その表情にすら愛しさが込み上げる
いっその事
このまま、自分の中に閉じ込められたらいいとさえ思ってしまう
誰にも触れさせず、私の元で…
こんな横縞な気持ちを知っても美羽さんは、側にいてくれるだろうか?
けれど、今はその気持ちを奥へ奥へと押しやり、抱き締めていた腕を緩め美羽さんの顔を覗き込んだ
「どうして、そんな顔をするんです?」
俯いたまま黙り込む彼女
そんな彼女を黙って見つめていると、突然パッと顔を上げ言った
「何もありませんよ。ちょっと今日は、コンタクトの調子が悪くて何だか少し目が痛いんです」
先程まで見せた表情は消え去り
そこにあったのは、いつもの明るい美羽さんの顔だった
――――気のせいか…?
いや…
「それは本当ですか?今日はそんなこと一言も…」
「本当に、コンタクトのせいですからっ!!」
私が言い終わるよりも早く、彼女は語気を荒げ言葉を被せた
どこか腑に落ちないような気がするものの、彼女が言いたくないのならそういう事にしておいた方がいいのかもしれない
「そうですか…。では、早く目を休めた方がいいですね。家まで送ります」
ゆっくりと彼女から身体を離し、玄関へ向かおうとすると、後ろからキュッとシャツの裾を握られた
「どうかしましたか?」
彼女の方へ向き直りながら尋ねる
「あっ、いえ…何でもないです。ごめんなさい…」
「……そうですか。では、行きましょうか」
「…はい」
そうして、美羽さんの額にキスを一つ落とすと、彼女の背中を押すようにしながら玄関へと向かった
─────私はなんて浅はかだったのだろう…
彼女の気持ちに、何ひとつ気付いてあげられていなかった
この時、美羽さんが求めていたモノを、見ない事にしてしまっていたのだ
これが、後から後悔する出来事になるとも知らずに―――――……
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