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〜ミケーレside〜







今日の美羽は、まるで別人だった





以前と全く同じように…


とまではいかないものの、最近の様子を思えば見違える程、その表情は明るかった






美羽の中で、何か心境の変化でもあったのだろうか?









今朝、出勤した時には


昨日、あれだけあからさまに僕を避けていた彼女が、自ら僕に話し掛けてきた







美羽は言葉を一つ一つ選びながらも







今、気持ちが混乱している事




落ち着くまで待っていて欲しい事








しっかり僕の瞳を見据えて伝えてくれた








その姿はどこか晴々としていて、頼もしくも感じられ




その久し振りの彼女の表情に、深く安堵したのだった









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───コンコンッ…








「は〜い、どうぞ〜」






ノックの後、妙子の緩い声を確認してから、オーナールームの扉を開ける





妙子はこういう事には少々厳しい





ノックと同時に扉を開けたりしたら、途端に雷が落ちる






そう言えば、それでマコがこの間、怒られていたな…







「……あら、ミケーレ……って、何笑ってるの?」





「ぁ……いや、何でもないよ」





思い出し笑いを堪えながら、僕はここに来た目的を果たす






「キッチンの片付け、全部終わったよ。明日の下拵えもね」





「今日は随分早いのねぇ?」




妙子は自分の腕時計に目を落とした






「ははっ。人を怠け者みたいに言わないでおくれよ」





「だって、いつも琢磨とジャレてるじゃない」





「ははは。まぁ、最も…琢磨には嫌がられてるけどね」








「ふふふ…琢磨は真面目だからねー。ミケーレと足して2で割ったら丁度いいんだろうけど…」






妙子は笑いながら両手を広げ、大きく伸びをして







「じゃぁ…今日も1日ご苦労様。また、明日も宜しくね」





会話を締めるようにそう言った





いつもなら、こうして報告した後、二言・三言話して終わりだが





今日はそれとは別の…本来の目的があった











「妙子…?」




「ん〜?なぁに〜?」





椅子から立ち上がり、腰を捻りながら、妙子は不思議そうな顔を僕に向ける











「………昨日、美羽に何かあったのかい?」






「どうして?」




妙子は表情を変えずに尋ね返した






「今日の美羽は見違える程、明るかったろう?妙子のお陰かと思ってね…」






昨夜、妙子は美羽をどこかに連れ出したようだし、間違いなく妙子のお陰だろう









「ふふっ……別に私は何もしてないわよ!?ただ、美羽ちゃんに食事に付き合ってもらっただけ」









妙子の事だ



聞いても言わないだろうと思っていたが……






「そうかい…なら、いいんだ。ありがとう、妙子」






彼女に感謝の気持ちを伝えたかった








「だから、お礼言われるような事なんてしてないってば…」






「あぁ…でも、ありがとう」






美羽の中で、何がどう変化したのかまでは分からない




けど…妙子のお陰で、美羽は一歩進む事が出来たんだ







僕は、ただ…それが嬉しかった












「変な事を聞いてすまなかったね。じゃ、お疲れ様…」





目的を全て達成した僕は、部屋を後にしようと妙子に背を向ける








「ミケーレ!」




すると、ドアノブに手を掛けたところで呼び止められた








ゆっくり振り向くと





妙子は滅多に見せない真面目な面持ちで








「………あの子なら大丈夫よ。芯はしっかりしてる子なんだから…」






僕の心配事を見透かすように言った







「あぁ…そうだね」





それを、僕は笑顔で返す









「ミケーレ……あんまり心配し過ぎてると、“お父さん”になっちゃうわよ?」





「ふっ…そうかもしれないね。―――けど、そうするしか出来ないんだよ、僕は……」






「ほ〜んと、損な性格…」





「全くだ…」







「けど、そんなあなたが私は好きよ」






「………ありがとう、妙子」











余計な詮索はしない




けど、妙子らしい見守り方









僕はその優しさに感謝しながら、この部屋を後にした













bkm



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