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ミケーレさんが取ってくれていた2日間の休みが明け、アモーレへ出勤する日







いつもより早めに着いた私は、オーナールームにいた












「美羽ちゃん、大変だったわね…。ごめんなさいね、こんな時に出張だったなんて……」





「いえ、妙子さんは何も…。私が不用心だっただけです。私の方こそ、お店にまでご迷惑をお掛けしてしまってすみませんでした」





「何、言ってるの!そんなの気にしなくていいのよ!うちの大事なスタッフだもの、当たり前でしょ!?」





「……すみません。有り難うございます」






妙子さんの気遣いに、私は深々と頭を下げた










「ねぇ…美羽ちゃん…?」






「はい…」






何か言いたげな瞳がこちらに向けられる












「……………うぅん、何でもないわ…」







「そうですか…。じゃぁ、私、開店準備があるので…」





「えぇ、お願いね。余り無理しないようにね」






「はい」







尚も向けられる視線を気にしながらも、気付かないフリをして、私はオーナールームを後にした















──ふーーっ……







扉を閉めたのと同時に緊張の糸が切れる






妙子さんが言わんとした事が何となく分かっていただけに




私の心は重かった
















その気持ちを振り切るように入れ替え、フロアへ続く通路を歩いていると





「美羽、おはよう!」





前方から一際明るい声が耳に届いた








その声を聞いた途端



私の心臓は大きく跳ね上がる









「もう休んでなくていいのかい?」






顔を合わせるのも、話すのもあの日以来




けど、ミケーレさんの柔らかい笑みはいつもと少しも変わらなくて







「はい……ミケーレさんにも色々とご迷惑をお掛けしました…」






正直、戸惑った









なるべくいつも通りを装い返事をしたものの、ミケーレさんの顔を見ている事が出来ず、俯き…横をそのまま通りすぎようとする












その刹那






「美羽!」






突然、擦れ違い様にグッと腕を掴まれた












「……君を困らせるつもりじゃなかったんだ」







どうしよう




後ろを振り向けない








「けど…あの日言った気持ちに嘘はない。僕の事も真剣に考えてくれないか…?」







どんな顔をしたらいい?






私、今どんな顔してる?







心臓が今にも破裂しそうな程、張り詰めている











体に力が入りギュッと強張らせると、掴まれていた腕が急に軽くなり




その重さは後ろから首回りにフワッと掛けられた










「ごめん……」






ミケーレさんが私の髪に顔を埋める










「………好きになってしまって…………」















“好きになってごめん”









何て台詞を言わせてしまったんだろう





私のせいでミケーレさんまで苦しんでる






はっきりしない私のせいで






恭一さんもミケーレさんも……







傷付けてしまう



















「さ、今日も1日頑張ろうか!」





石のように固まり動けずにいた私と、流れの止まってしまっていた空間を断ち切るかのように



ミケーレさんは私からパッと体を離し、わざとらしくも聞こえる声を上げた








「フロアは頼んだよ、看板娘」





「あ…」





そう言うと




またいつもの笑顔に戻っていて





髪をクシャクシャっと撫でると、キッチンへ入って行ってしまった










ミケーレさん……









去って行くその大きな背中を





私はまた




恭一さんの時と同じように、ただ…複雑な想いで見つめる事しか出来なかった














----------




















――――はぁー……








復帰1日目は散々だった







休んだ分、頑張ろうと意気込んでいたが






オーダーを取れば間違える



食器を洗えば割ってしまう



挙げ句の果てには、お客様に呼ばれている事すら気付けない





集中力を欠いたダメダメな私は、千秋君に怒られてばかりだった









結局…挽回するつもりが、他のみんなの足を引っ張る形になってしまって





そんな情けない自分に程々嫌気が差す










そんな不甲斐なさを感じながら、せめて閉店作業だけはしっかりやろうと気持ちを無にして客席のテーブルを拭いていると




不意に後ろから妙子さんに声を掛けられた








「美羽ちゃん、お疲れ様」






「あ、お疲れ様です。今日は、ミスばっかりですみませんでした」





テーブルを拭く手を止め、頭を下げると






妙子さんはそれには答えず










「美羽ちゃん……この後、私に付き合ってくれないかしら?」





そう言った







その瞳は、今朝と同じように何か言いたげに私に向けられていた

















bkm



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