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どうして?





あれ程、激怒していた恭一さんが





今、私を抱き締めている






あんな想いをさせてしまったのは私なのに…







どうして…?










ただ、そればかりが頭の中を駆け巡る











でも、確かに今







恭一さんの温もりがそこにはあって








これは紛れもない事実だ










ほんの数時間前までの私なら、迷わずしがみ付くようにして抱き締め返していたに違いない









けど、そうする事が出来なかったのは、心の中に迷いがあったからだ



















「美羽さん…」






きつく抱き締めていた腕が緩められると、真っ直ぐな瞳と出会う











「………すみませんでした」






「え…」







謝るべきは私なのに…












「ミケーレさんから、話は全て聞きました」









その瞬間


思いがけず出された迷いの原因に、心臓が跳ねるように激しく音を立てた









「あ…あの……」









ミケーレさんに聞いたって…








一体、どこまで?








さっきの事も知ってるの?









後ろめたい気持ちが鼓動を早める












「美羽さんは何も悪くない。むしろ、勝手に誤解し、傷付けてしまったのは私の方です。そのせいで、あなたがあんな……………っ―――…」





言葉に詰まりながら、恭一さんは苦しそうに顔を歪めている






「………あんな辛い目に遭っていたなんて……何も知らなかったとは言え、助けられなくて………ッ……」









今にもその切れ長の瞳からは、雫が零れ落ちそうだ













お願い




私の為にそんな顔しないで







今の私にはどうする事も………


















「……恭一さんは何も悪くないです。誤解させるような事になってしまったのは私の責任ですし、それに大丈夫でしたから……」









本当は、底が見えないくらい不安で…怖かった






何度も何度も恭一さんを呼んだ








この恐怖を「もう大丈夫だから」って受け止めて欲しかった






















けど、泣き付けなかった











恭一さんを裏切ってしまった私が、そんな事出来るはずもない




















「大丈夫な訳ないでしょう!!」






私の強がりに恭一さんは声を荒げた







「あ、すみません、つい…――――けれど、女性のあなたがそんな屈辱的な目に遭って平気でいられる訳がないでしょう?」






「恭一さん…」









「私が全部受け止めますから。不安も恐怖も……どんなあなたも…」






そう言って再び包む両腕が、今度は労る様に優しくて







「それに……私には言葉が足りなかったようです。過去に囚われ過ぎて、あなたが私の元から離れて行く事が怖かった。しかし、だからこそ…伝えなければならなかったのに……」







想いが雫となって頬を伝い落ちた











恭一さんがその涙を拭い取り、少しかさついた手が愛おしむように頬を撫でる









「美羽さん……あなたを愛しています……誰よりもあなたが愛しい。例え、どんな事があったとしても手放したくはありません」













ずっと、ずっと…聞きたかった言葉










私の不安を消してくれる唯一の魔法の言葉



















そのままゆっくりと、恭一さんの唇が降りて来る


































それなのに……
































私は俯いて顔を逸らしてしまった





















「………ミケーレさんですか?」







「え……ぁ……」










「キスをした事も彼から聞きました」







「あのっ、私…」







「彼の事が好きなのですか?」










何も言えなかった






自分でも分からないのに、どうして伝える事が出来るだろう…














「フッ…そんな顔しないで下さい。責めている訳ではありません。ただ―――…それでも私は、あなたが好きです。あなたが誰を好きであろうとも…」






「恭一さ…」






「言ったでしょう?どんなあなたも受け止めると…――――いや…そんな体裁のいいものじゃないですね」






恭一さんは苦笑いを見せながら私の手を取り、自身の胸に押し当てた








「私が、美羽さんじゃないと駄目なんです。私のここは、あなただけを求めている…。どんなに格好悪くても、美羽さんの隣には私が居たい」








掌からトクントクン…と熱い拍動と想いが伝わってきて









また、一筋涙が零れた



















「今日は、もう遅いのでこれで帰ります。こんな時間に済みませんでした。親御さんにも宜しくお伝え下さい。では…」









私の頭を撫でながら、恭一さんが柔らかく笑った










その顔はとても穏やかだった

















何かを乗り越えたような…今の私とは正反対の彼の背中を










闇夜に消えてからも










私は暫く立ったまま……ただ、眺めていた
















bkm



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