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〜美羽side〜







自分で自分のした事が信じられず、ミケーレさん家を飛び出した後





私は当てもなく夜道を歩き続け





真夜中になる頃



ようやく自宅へ辿り着いた








帰るなり母親にはこっぴどく叱られたけれど、いつもの雷もこの日ばかりは、耳から耳へとすり抜けていく







長くなりそうな説教を適当に交わし、自分の部屋へ戻ると



入るなり雪崩れ込むようにしてベッドに身を沈めた

















ずっと頭から離れない










ミケーレさんの想い








匂い………唇の感触









あの時の私……








何度も何度も繰り返し頭の中で再生される








その度に、浮薄な自分の行動に自己嫌悪した













あの瞬間




ミケーレさんから目が離せなかった




まるで、吸い込まれるようにして目を閉じてしまっていた







避けようと思えば避けられたはずなのに






どうして、そうしなかったんだろう…?






ミケーレさんが好きなの?












分からない…







自問自答したところで、答えなんか見つからなかった










「もぉ…ゃだ……」




目を背けたって何の解決にもならないけれど




とにかく今は逃げ出したくて






この気持ちまで覆い隠そうと、布団を頭までスッポリと被った
















もう、疲れた


今日はこのまま寝てしまおう







いっその事、何も考えずずっと寝ていたいよ


















けれど、運命の神様はそんな狡い私を休ませてはくれなかった





























───ピンポーン…







こんな時間に鳴り響いたインターフォン








何だか胸騒ぎがする















そして、その予感は的中した














──コンコンッ






「美羽…?」






来客者の応対をしたらしい母が、ドアをノックし顔を覗かせる










「各務さんが見えてるんだけど…」





「え…!?」







そこでまさか出るとは思わなかった意外な名前に、混乱している頭はますます複雑に絡まり合った







「お母さん、ビックリしちゃった。美羽の事、外泊させた事もないし、必ず家の前まで送ってくれるあの生真面目な各務さんがこんな夜中に訪ねて来るんだもの……何かあったの?」





「……ぁ…ん…っと…」





どう答えていいか言い淀んでいると、母は全て悟ったような顔を見せた






「だから、ずっと様子がおかしかったのね…。どうせ、美羽が我が儘でも言って、各務さん困らせたんでしょ?」








何にも知らないくせに…






ただの喧嘩ならどれだけいいだろう









「とりあえず今、玄関で待っててもらってるから、早く行きなさい」




「玄関…?」




「“こんな時間に上がれません”だって!ほーんと、美羽には勿体ないわ。あんなに素敵な人、そうそういないわよ!?さっさと仲直りして、早く孫の顔でも見せてちょうだい!」







孫って…


どんだけ話が飛躍してるのよ







「じゃ、お母さん、寝るから!あとは頑張って!!」




ガッツポーズとお気楽なエールを残すと、言いたい事を言った母は、さっさと自分の部屋へ戻って行ってしまった













どうして私には、あのお気楽さが遺伝されなかったんだろう…





今程、羨ましく思った事はない



















どうしよう




すぐ側に恭一さんが…









不意に、あの日の恭一さんの表情が蘇る








今、こんな状態でまともに話なんて出来るだろうか?





恭一さんの顔をまともに見られるだろうか?









会いたいと思う自分






会いたくないと思う自分









自分でも整理の出来ない複雑な気持ちが鬩ぎ合い、私の心は一層重くなった
















けれど、いつまでも部屋に籠っている訳にもいかず、意を決した私は、足取り重く階段をゆっくりと降りて行く












するとそこには、会いたくて堪らない筈だった姿があった








走って来たのか、乱れた呼吸を肩で整えている





久し振りに見たその姿は、少し痩せたようにも見えた







「……恭一さん…」





伝えなきゃいけない言葉は沢山ある筈なのに、彼を目の前に何ひとつ出てこない






息が苦しい






まるで、徐々に追い込まれていくような感覚に囚われる











―――やっぱり、今は…











そう思った刹那





勢いよく腕を引っ張られた私は、沈黙を破るようにして、恭一さんに強く包まれていた








「美羽さん…」






恭一さんが私を抱き締めてくれてる








嬉しいはずなのに…










抱き締め返す事の出来ない私の両腕は、行き場を無くし宙をさ迷っていた―――――――――………















bkm



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